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カテーテル特許訴訟の逆転劇 米国特許弁護士 服部健一
米国特許弁護士 服部健一

長旅 


 大阪でのデポジションが終了し、開発にかかわった5人のうち、最も重要と見られる中村発明者のデポジションはグアム島で行うことになっていた。
 私と安斎弁理士はワシントンD.C.から、ベルベスコス弁護士はインディアナ州から飛ぶため別行動になる。同じワシントンD.C.から日本へ行く場合は直行便もあり、13時間程だ。しかし、グアム島はアメリカ領土内にもかかわらず、ワシントンD.C.−シカゴ−ハワイ−グアム島と乗り継がねばならないため、実に18時間もかかる。まあ、グアム島へはアメリカ人は軍関係者以外はほとんどいないため、直行便がないのは当然だろうが、それにしても遠いものだ。体力には絶対的自信を誇る私も若い安斎弁理士とも、さすがに長い飛行時間と乗り換えのため、グアム島にようやくついた時には少々バテ気味だった。それでも青い空と海に囲まれたグアム島を眼下にすると気持ちは安らいだ。
 ホテルにチェックインすると既にベルベスコスが到着していた。
「やあ、ケン、ヨシ、ご苦労さん」
 ベルベスコスはわれわれを見つけるとすぐ声をかけてきたが、がっしりした彼の体も声も疲れがあるようだった。
「やあ、スペロ。いや実に遠いところだな」
「距離的には東京より近いんだがな。俺もグロッキーだよ。ところで、やつらもホテルに着いている」
“やつら”とは少なくとも中村発明者とシュナイダー弁護士のことだろう。それ以外に誰が来ているかわからない。ヤマザキ・メディカル社の連中も来ているかもしれない。
「それでデポはいつから始まる予定なんだ」
「シュナイダー弁護士によると中村発明者は疲れ切ってているので、2、3時間の休憩が必要だと言っている」
 アメリカの特許訴訟では発明者はデポジションに応じなければならない。しかし、発明者が過労であれば協力せざるを得ない。過労はわれわれも同じであった。長時間の飛行のみでなく、その間のデポ対策、質問事項の整理、訴訟のほかの事項の対策等仕事は山のようにあり、しかも時差は14時間もあるのだ。疲れるのが当たり前だ。おそらくシュナイダーも疲れており、発明者の疲労は弁護士の疲労でもあろう。
「とにかく2時間後にシュナイダーが俺の部屋に電話を入れることになっている」
「それまではわれわれも休憩にするか」
「そうしたいところだ。頭や体がクラクラじゃあ、いい質問もできないからな」
「頭がクラクラなら私が空手チョップですっきりさせてあげますよ」
 若い安斎弁理士は疲れているようでもまだ元気だ。
「よせよ、俺の頭はスイカじゃないぜ」
「スイカより固そうだから、手が負けるかもしれないな」
 3人は大笑いしてそれぞれ部屋に戻って休むことになった。
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