反町
柳田先生が『ジュリスト』誌で展開された法曹大学院、いわゆるロースクール方式の構想がたいへんな反響を呼んでいます。アメリカの制度を分析された上で、日本に導入する方策を論じられていますが、まず、構想を練られた経緯をお聞きしたいと思います。 |
柳田
私は1994年からハーバード大学の評議員(Member of Visiting Committee Board of Overseers)として活動しています。同大には、同大のロースクールを調べて問題点をピックアップし、大学総長に改善勧告を出すシステムがあります。私は約20名あまりで構成されるメンバーの一員です。また2年前から新しい時代に向けた改革のプランを練っていますが、それに関するメンバーでもあります。そのためハーバード・ロースクールのことは改革に関することまで含めて、詳しく理解しているつもりです。
日本の法曹教育の研究に取り組むようになった直接のきっかけは日米法学会での講演会です。ハーバード・ロースクールと比較した日本の法学教育というテーマでした。その準備をするうち、日本の司法制度に重大な問題があることを思い知ったのです。法学専門教育機関の不在、一般教養教育の圧倒的な不足、法曹の不足、この三つの問題です。そして、日本の制度の問題点を指摘した上で、ハーバード・ロースクールをモデルに、日本にこの制度を採り入れるなら、どうあるべきか提言したわけです。
反町
やや話が戻ります。ハーバードが改革のプランを練っているということですが、どのような問題意識をもっているのですか?
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柳田
ボーダーレス化とインフォメーション・テクノロジー化が進む世界における法律家の役割はどういうものか、それに対応した教育はどうあるべきかを研究しています。経済活動を中心にボーダーレス化が進む一方で、各国には主権に基づいて制定された法律があります。そのようなグローバルな社会が求める法的ニーズにどう対応するかを研究対象にしているわけです。
柳田
はい。日本の弁護士も国際競争の時代に入っています。国際社会でふさわしい役割を果たすためには司法を強くしなければならない。端的に言えば、司法の質と量、双方の充実です。私は、世界各国の弁護士と競い、役割を果たすための方策が必要だと提言しているわけです。
反町
その点はまったく同感です。国家間の紛争、交渉・取引は最終的には法律という形でまとめる以外ない。日本は軍事力の行使を否定している国ですから、よけい法の正義が必要です。
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柳田
日本人も国際社会で第一級の法律家として役割を果たせる素質はもっています。ところが、法曹養成システムに根本的問題があるために、どうも元気がない。法曹人口が少ないため、司法全体の力量が非常に弱体化している。そこに根本的問題があります。
反町
先生は海外で活躍されていますが、例えば、アジアにおける状況はいかがですか?
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柳田
日本企業が抱える法律問題について、アメリカ、イギリス系の弁護士が法務を担当していることが多いですね。特に中国などはアメリカの弁護士が圧倒的です。そもそも日本の弁護士には海外に出て行くたけのキャパシティがない。元日弁連会長の中坊公平先生が「2割司法」とおっしゃったが、日本国内の法律事務処理さえ満足にこなせていないわけですから。
反町
海外事業では法律家をつける。それがひいては国益につながり、アジアの経済発展、政治的安定にとっても極めて重要だと、私はかねがね主張しています。今回の司法制度改革でそれを達成しないと、日本は、海外事業を通じて日本の富はますます流出するでしょう。
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柳田
日本企業が、かつて中国に盛んに投資していたとき、きちんと弁護士が関与していなかったため、その後に多くの企業が不利な状況に立たされました。関係がギクシャクしたり、訴訟になったり、撤退を余儀なくされるといったトラブルが多発したのです。アメリカ企業ではあまりトラブルが起きていない。進出するとき弁護士がついて、未然に問題を防止しているわけです。
反町
今回の司法制度改革で、今後日本企業が単独で外国特にアジアへ進出する際に、日本の国益が用語されるよう世界に視野を広げた審議が行われることを期待したいですね。司法制度となると、どうしても裁判の話に集中しがちでしょうが、柳田先生がロースクール構想の中で訴訟外を充実させる点に着目されているのは国益擁護の点からみて極めて重要なことだと思います。
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