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Y2Kによる損害賠償裁判 |
では、民間企業の経営者はどのような認識を持つべきでしょうか? 私はY2Kのコンサルタントの仕事をするときは、まず法律問題から説明します。特に民間企業にとってこれはきわめて重大な問題です。ところがY2Kをめぐる日本のマスコミの論調をみても、法律のことは軽視されています。 私はアメリカに38年住んだ経験があります。アメリカは“訴訟社会”とされ、何でも裁判沙汰になると言われていますが、法律に従って社会を運営しているからこそ、あれだけ多様な人々が社会を形成して運営できているわけです。 |
アメリカでは何事も法律を第一に考えて判断します。一方、日本人は、より情緒的で、何事も人と人との関係で決めて、判断できるような考え方をします。そこに問題があります。 企業経営者ともなれば、Y2Kのことを知っている人がほとんどでしょう。しかし、典型的な日本の社長は「それは情報システムの問題だ」とそのセクションの人間に任せてしまいます。それは間違いです。Y2Kは情報システムだけの問題ではなく、経営問題であり、社長自らが責任を持って対処しなければならない性質の問題なのです。 |
実際にY2Kで経営危機に陥って、裁判になったら、どうなるか? 私がかかわっていたソフト会社で3年前、その裁判のシミュレーションをしたことがあります。あるアメリカ企業でそれまで業績が年30〜40%伸びていたのに、Y2Kのトラブルによって50%以上、営業ダウンしてしまったとします。そのような事態が起これば、経営責任を問われる訴訟を起こされ、最終的にはトップや重役が責任をとらざるを得ない判決が出るはずなのです。 |
そのような事態を防ぐためには、十分な調査と準備が必要です。
自社製品はY2Kに対処しているのか? 問題を起こして、ユーザーから訴えられたときのための十分な調査・準備は実施しているのか? 協力会社、下請け会社についてはも完全にチェックができるのか? 販売時の契約書にはY2Kについて記載されているか? |
この問題の本質を顧問弁護士はどれだけ正確に把握しているか? もちろん問題は国内にとどまりません。日本は貿易立国です。自動車、家電、工作機械など、これまで海外で販売した製品にも莫大な数のマイクロプロセッサーが内蔵されています。その対策はどうなっているのか? メーカーだけでなく商社にも責任が発生します。これまで日本の商社は外国で多くのプラントを売ってきました。それらには何百から何千、あるいは何万という莫大な数のチップが使われています。 |
重大な問題が生じたとき、その契約が設置した国で交わされたものであれば、輸出した商社は日本ではなく、その国で訴えられます。裁判に負けて、莫大な損害賠償の支払いを被る判決となる可能性があるのです。 経営者としてはY2Kを重要な法律上の問題として十分、認識しなければなりません。ところが日本の指導者層は法律に疎いと言わざるを得ません。そういう可能性をまるで考えていない経営者がいるのです。 |
最近、私はある上場企業のコンサルタントをしました。その会社は一応、「2000年対応室」をつくっています。専務取締役が責任者の立場に就いてはいますが、あくまで名目上で、問題の本質がわかっていないのです。また現場で責任を持ってあたるのは課長や部長ですが、現実問題、部長の権限では他の部署に必要な命令を出すことはできません。 |
私はその会社の幹部を集めて講義をしました。要点は「各部署の責任を明確にさせろ」と。しごく当然のことです。 講義の後、ある役員は「実は来年の予算も立っていて、人も金もないが、どのようにすればいいか?」と私に問うのです。その役員はY2Kのことを知ってはいたが、自分は何もしなくていいという認識なわけです。それが典型的な日本の民間企業の現状です。 |
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