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通巻 194号

<司法制度改革懇話会>
【提言3】 弁護士の隣接法律専門職種等との関係
3−1 弁護士法第3条第1項の「その他一般の法律事務」の解釈を明確化すると同時に、第72条を削除すべきである。
3−2 簡易裁判所における許可代理(民事訴訟法第54条第1項但書)の運用を改善し、司法書士が代理権行使を円滑に行えるようにすべきである。また、足枷となっている司法書士法第10条を削除すべきである。
3−3 司法書士法を改正し、司法書士に法律相談権、簡易裁判所事件における代理権、民事保全・執行事件における代理権を付与すべきである。
3−4 弁理士法を改正し、弁理士に特許侵害訴訟における代理権を付与すべきである。
3−5 税理士法を改正し、税理士に税務訴訟における代理権を付与すべきである。
3−6 行政書士法を改正し、行政書士に行政不服審査に係る審査請求、再審査請求、意義申立の代理権を付与すべきである。
3−7 社会保険労務士法を改正し、社会保険労務士に労働保険・社会保険関係訴訟の代理権を付与すべきである。
3−8 総合的法律・経済事務所の開設、法人化を認める法制度を確立すべきである。
<理由・解説>
3−1について
 弁護士による法律事務独占(弁護士法第3条、第72条)は、弁護士による良質なリーガルサービスの提供を確保するどころか、結果として弁護士のみがサービスの供給源であり続けることの限界を示した。その原因として、規制緩和の推進によるユーザー側のニーズ拡大に追いつけなくなったこと、サービスそのものが短期間のうちに高度化・多様化し、弁護士だけが法律事務を取り扱うことに能力的な限界が発生したことを指摘できるだろう。
 司法制度は、あくまでユーザーのために存在する。今回の改革を契機に、弁護士と隣接法律職(司法書士、税理士、弁理士等)の職域問題を抜本的に解決すべきである。
 そこで、弁護士法改正から着手しなければならない。まず第72条第1項にある「その他一般の法律事務」の解釈については、第3条にある「法律事件」との文言の差異に着目し、訴訟事件、非訟事件などの列挙事由と同等に考えるか(制限説)、字義通りにあらゆるすべての法律事務と理解するか(無制限説)、見解の分かれる所であるが、他士業も同等に法律事務を取り扱うという制度改正を視野に入れれば、前者の解釈をもって妥当と考える。
 さらに、弁護士に法律事務を独占させる具体的な根拠・必要性が乏しく、また弁護士法は法律系の士業法の一般原則を示したものではないことからすれば(憲法の下、法は平等である!)、第72条の存在意義はなく、削除すべきである。
 弁護士法第72条の改正(削除)については、非弁護士による低質なサービスが横行し、司法制度を根幹から揺るがすとの批判がある。しかし、ユーザーによる弁護士の選択により、法律業務供給サイドで競争が生じうる。 競争原理により低質なリーガルサービスは淘汰されてゆくであろう。
3−2について
 民事訴訟法は弁護士代理の原則を採るが(第54条第1項本文)、例外として「弁護士でない者」の訴訟代理を認めている(簡裁における許可代理、同条項但書)。簡裁事件に限定されているものの、訴訟物の内容に応じて当事者のニーズに適った代理人を立てることができる。
 司法書士は本人訴訟(簡裁事件の90%を占める)のサポーターとして重要な役割を担っているが、司法書士としての立場では許可代理がなかなか認められないという実態がある。これは、弁護士法第72条の存在もさることながら、業務の範囲を越えて他人間の訴訟に関与することを禁止した司法書士法第10条がネックになっていると思われる。
 本人訴訟についても司法書士が自ら代理行為を行う合理性がある。もともと、許可要件、許可取消事由(民事訴訟法第54条第2項)について法律的な根拠を欠いており、実務法律家を代理人とするべき申請を却下する理由はないはずである。
 現行の許可代理制度を積極的に活用すべきであるとともに、司法書士法第10条は削除すべきである。
3−3について
 司法書士は登記業務、供託業務、訴状作成等の裁判事務を主に手掛ける実務法律家である(司法書士法第2条)。 司法書士は特に、本人訴訟を支えてきた実績がある。本人訴訟追行における当事者本人と司法書士との関係はよく「患者と医者の二人三脚」に喩えられるが、法律相談に始まり、証拠の収集・保全、訴状の作成、答弁・抗弁に関する助言など一連の流れで司法書士が関与するのが通常である。また訴訟の場面では、裁判官の釈明権行使により、司法書士が説明するケースも多々ある。
 しかしながら、司法書士法は法律相談権も訴訟代理権も規定を欠き、実態に即していない。そこで、これまでの本人訴訟への関与の実績を踏まえ、簡易裁判所における通常訴訟、調停・和解事件の代理権を付与すること が妥当である。この点については、政府の「規制緩和推進3か年計画(再改定)」に新規項目として加えられている。
 また、不動産の登記設定が司法書士の業務権限でありながら、競売申立等の代理権限はなく、保全手続についても同様、一連の処理が全うできない。従って、民事保全・執行事件についても代理権が必要である。
3−4について
 わが国でも知的財産権保護に関する危機意識が高まり、人的基盤・制度的基盤の両面からプロパテント政策が浸透しているところである。1999年12月22日、工業所有権審議会が「弁理士法の改正等に関する答申」を出し、2000年4月18日には答申内容をほぼ全面的に盛り込んだ「弁理士法改正法案」が国会で成立した。改正内容は、特許ライセンス契約等の仲介・代理、コンサルティング業務の追加、仲裁手続に付随する和解手続代理業務の追加など、業務範囲の見直しが主である。弁護士との隣接職種の中で、弁理士法の改正が最も早かった。
 ところが、工業所有権(特許、実用新案、意匠、商標)侵害訴訟における訴訟代理権の付与については、2001年夏の司法制度改革審議会答申まで見送るとされた。
 特許侵害訴訟では技術的解釈が核心であるから弁理士の役割がもともと大きいし、民事訴訟実務の研修も十分なものと評価できるレベルに至っていることから、補佐人(民事訴訟法第60条)ではなく、訴訟代理人(第54条)としての地位と権限を付与することが妥当である。
3−5について
 税理士は現在、税務訴訟において訴訟代理人として出廷することは当然認められていないし、補佐人として出廷する場合においても「裁判所の許可」(民事訴訟法第60条第1項)が必要で、煩雑な手続が要求される。
 納税者の利益擁護を徹底するためには、税法、財務諸表に関する正確な知識と実務経験が必須であるが、実務のレベルでは訴訟においても弁護士はそのニーズに応えきれていない。他方、課税サイドにはいわゆる指定代理人制度が認められ、国税庁等の専門官が代理人となっている。通常、税務訴訟においては納税者は常に不利な立場に置かれている。
 そこで、税務申告から一貫してコンサルティングを施してきた税理士に、裁判所の許可を必要としない「出廷陳述権」を付与することも一案であるが、さらに一歩進めて「訴訟代理権」を与え、納税者の利益擁護を図ることが必要である。「規制緩和推進3か年計画(再改定)」でも新規項目として追加され、平成13年度中の法改正実施をうたっているところである。
3−6について
 21世紀には多くの行政サービス、商取引が電子化される。行政書士は業として取り扱う範囲が極めて広いが(行政書士法第1条の2、第1条の3)、行政書士は電子政府、電子社会を下支えする実務専門家として、情報ネットワーク社会の維持・拡大に相応しい、一層の業務拡大が必要である。行政書士と弁護士の業際関係を仕切り直し、行政書士の改正を行うべきである。
 申請手続が電子化されることに伴い、許認可、紛争解決に係る法的ニーズは莫大に膨れ上がると予想される。これまでのように問題事案をその都度、行政書士から弁護士にバトンタッチするようなやり方では紛争増加に十分に対処できないと思料される。
 申請手続からその後の不服申立てに至るまで行政書士が一貫して業務を担当し、サービス向上を図れるように、不利益処分についての審査要求、意義申立て、再審査請求(行政不服審査法第3条第1項)の代理権を行政書士に付与すべきである。
 また、将来的には行政事件訴訟法の訴訟代理権を行政書士に付与し、訴訟手続に関与することで国民の権利保護を図ることも検討する。
3−7について
 社会保険労務士(以下、社労士)は、労働保険・社会保険の審査請求につき代理権限を有する(社労士法第2条第1項)。そして、労働保険・社会保険の給付について不服のある者は訴訟(処分取消の訴え)を提起することができるが、その前に審査請求を尽くしていることが要件とされている(労働者災害補償保険法第37条等)。
 そうだとすると、依頼者側はいきなり弁護士に処分取消訴訟の提起を依頼出来ない。審査請求を前置し、社労士に手続代理を依頼することになるが、再審査請求において不給付処分の決定がなされた場合、社労士と弁護士に別途に代理委任しなければならなくなり、費用と手間が甚だしくかかる。
 将来にわたる、社労士のコンサルティング業務(社労士法第2条第1項第3号)の重要性にも鑑み、労働保険・社会保険の処分取消の訴えに限り、訴訟代理権を認めることが必要である。
3−8について
 弁護士、司法書士、公認会計士、税理士、弁理士、社労士、行政書士、中小企業診断士等の士業がそろった総合的法律・経済事務所の開設については、法務省、大蔵省など関係省庁が協議した結果、現行法の下で基本的に可能との結論が出されている(1999年5月)。しかし現在では、ごく少数の弁護士と弁理士、公認会計士と税理士が共同する事務所を設置している例は見受けられるが、3種以上の士業がワンフロアで開業しているケースは稀であるし、まして総合事務所の法人化は認められていない。
 そもそも、総合的法律・経済事務所の開設が「規制緩和推進3か年計画」に盛り込まれた趣旨は、いわゆるワンストップサービスを実現することで、相談案件の一回的解決を図り、コストダウンがもたらすユーザーの利益を確保することにある。国家の監督を排除し完全な自治権を確保している弁護士と、それ以外の士業がワンフロアで共同事業を行うことの不合理性を指摘する見解もあるが、ユーザー側の視点に立ってみれば、そのような議論は不毛である。
 また、弁護士と隣接法律職種の業務権限は、今後一層の改革が進められていくと共に、申請・取引の電子化が進むなど社会構造の基盤が大胆に変貌を遂げていくことから、士業間の協力・連携がますます必要な時代となってくる。そのような背景があるからこそ、総合事務所開設の意義は大きい。業際問題の解決は、総合事務所を開設した後でも十分行えることである。
 総合的法律・経済事務所の開設促進を図ると同時に、法人化も認めるべきである。法人化のメリットについては、先に指摘した通りである。

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