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vol.1
ワールド トレンド レポート
ロシア
 ロシア連邦の国家機構と93年憲法

佐藤賢明(東アジア経済法律事務所ロシアプロジェクト研究員・二松学舎大学講師)

 1991年12月ソ連邦が崩壊した。
 ソ連邦は15の連邦構成共和国からなっていたが、それぞれ独自の道を歩くことになった。そしてロシアもその一つであった。当時のソ連邦では、連邦としての法体系、すなわちソ連邦憲法、ソ連邦刑法、ソ連邦民法等があり、同時に連邦を構成するロシア、ウクライナ等の各共和国も独自の共和国憲法、共和国刑法等の法体系を有し並行して存在していた。ソ連邦崩壊の過程で連邦法体系も崩壊した。ただし、ソ連邦法体系すべてが完全に崩壊したのではない。ロシア共和国の利益に合致するものは適用された。旧ソ連邦法、旧ロシア共和国法および新しい法これらが渾然と存在する状況になった。この状態は今日まで続いていると言っても過言ではない。 共和国の法体系を中心として適用されることになるが、この法体系も本質的に旧体制の社会主義法である。現実の改革とそぐわない。そこで、さまざまな改革とともに法制度改革が実施されることになった。
 ロシアには約百以上の民族が住んでいる。ソ連邦崩壊後の新国家体制をめぐる議論の中でロシアはロシア共和国から連邦国家であるロシア連邦へと移行した。そして、93年ロシア連邦憲法が制定され今日まで至っている。


I 93年連邦憲法
 ロシア連邦の国家体制を93年憲法中心に述べると以下の原則が明らかになる。(1)連邦国家、(2)三権分立(議会、大統領制、裁判所)、(3)基本的人権と自由の尊重、(4)経済活動の自由、(5)私的所有権の保護、(6)国際法の遵守である。以下主な内容を述べる。


(1)連邦国家
 ロシア連邦を構成する主体は89である。その内訳は共和国(サハ共和国等)、地方(沿海地方等)、州(サハリン州等)、自治州、自治管区および連邦的意義を有す都市としてモスクワとサンクトペテルブルクである。 連邦と構成主体の管轄項目が第71条ないし第73条に羅列されている。 そこで興味深いのは、土地、地下資源、水資源およびその他の天然資源の占有、使用および処分の問題(第72条)が共同管轄下にあるとされている。石油・ガス等の天然資源の分割が現在政治論争の一つとなっている。


(2)三権分立(議会、大統領制、裁判所)
1 議会:二院制である。連邦会議(上院)は各連邦構成主体から2名。知事と当該主体の議会の議長がなる。178名である。国家会議(下院)は450名、半数は比例代表制から、残りの半分は小選挙区から選出される。任期は4年。この二つの院を合わせて連邦議会という。
 立法の発議権は、大統領、連邦議会の議員、連邦会議、連邦政府、連邦構成主体の立法機関に与えられている(第104条)。
国家会議に提案された法案は、各委員会で審議され国家会議に上程され、3回の読会が行われる。過半数の賛成で採択された法案は連邦会議に送付される。連邦会議で過半数の賛成又は14日以内に審議が行われなければ、賛成とみなされ、5日以内に大統領に送付される。大統領は14日以内に署名し公布され法律となる。大統領は署名拒否可能である。そして両院の再審理が行われ、それぞれ3分の2の賛成で法律となる。

2 大統領:大統領は国家元首である(第80条)。国民から直接選挙で選ばれ任期は4年、 ロシア連邦に10年以上在住し35歳以上の連邦市民が被選挙人となる。 連続二期を超えては務められない。大統領の主な権限(1)国家会議の同意を得て首相の任命、 (2)政府の総辞職の決定権、(3)中央銀行総裁候補を国家会議に提案、 (4)憲法裁判所、最高裁判所、最高仲裁裁判所の裁判官の候補者及び連邦検事総長候補者を連邦会議に提案、 (5)連邦軍の最高司令官、(6)国家会議の解散権、(7)大統領令の発布権、非常事態宣言等大きな権限を有している。

3 裁判・司法制度:司法権は裁判所に帰属している。裁判所には憲法裁判所、裁判所、仲裁裁判所の制度がある。憲法裁判所は19名の裁判官からなる。ここでは連邦法令の適法性や連邦構成主体間の問題等を解決する。裁判所には連邦最高裁判所を頂点に連邦構成主体の最高裁判所そして各地の地方裁判所、治安判事とピラミッド型の体制になっている。 そこでは、刑事、民事等の一般的事件を解決する。仲裁裁判所は経済問題が審理の対象である。連邦最高仲裁裁判所を頂点に連邦管区仲裁裁判所(10ヵ所)そして連邦構成仲裁裁判所で構成されている。


(3)基本的人権および自由の尊重
 第17条にて自由の承認および保障がされている。具体的には法律、裁判の前での平等、移動の自由、 思想・信条の自由、言論の自由、結社の自由、宗教の自由等の自由が保障されている。


(4)私的所有権および企業経済活動の保護
 禁止されていない企業経済活動を行うことができる(第34条)。私的所有権は保護され、裁判所の決定以外財産を奪われることはない。国家的必要の場合、事前に等価補償が行われる(第35条)。土地の私有も第36条で認められている。 しかし、現実には農業用地の私有化を認めるかどうかで、土地法典が今日まで採択されていない。私的所有権および企業・経済活動の自由を憲法が認めたことは社会主義から離れる上で非常に重要であると考えらる。


ロシア連邦の国会機構図
「現代のロシア」大空社 98頁より作成


II 法整備
 ロシアの法体系は、憲法、法律(憲法的法律および一般法律)、政府決定および大統領令からなっている。刑法典は1996年6月、民法典第1部は94年4月同法典第2部は96年2月、税法典が98年7月にそれぞれ採択されるなど歩みは遅いが進んでいる。基本的な法令でまだ未整備なのは民事訴訟法、新外国投資法、土地法典などがある。



→ロシア民法典

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