メンタルヘルス考察 ~心理専門家の現状分析・キャリアコンサルタントの今後の展望~
人手不足は企業経営にとって最重要課題の一つである。生活様式の変化など、働く人の意識等が個別・多様化していることもあり、今後は、個人の働き方や職業キャリアに関するニーズ等を把握しつつ、「全ての働く人が心身の健康を維持しながら幸せに働き続けることのできる社会を実現すること」が求められる。そこで、公認心理士、1級キャリアコンサルティング技能士の立場から、企業内の「メンタルヘルスケアのあり方の問題」について考察した。キャリアコンサルタントができることは何か、考えるヒントとしていただきたい。
- 目次
企業内メンタルヘルスの推進:重要性、対策、そして意義
帝国データバンクの「人手不足」に対する企業の動向調査によれば、人手不足倒産件数は過去最多ペースで推移しており、建設・物流における「2024年問題」、団塊の世代が後期高齢者になることで予想される「2025年問題」など、今後さらなる人手不足が予想される。一方、令和4年労働安全衛生調査によると「仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は、82.2%と令和3年までの50%台から大幅に増えている。また、メンタルヘルス不調により、連続して1カ月以上休職した労働者又は退職した労働者がいた事業所の割合は13.5%であり、うつ病に絞って社会経済的損失を見積もっても約2兆円とされている。(うつ病の疾病費用研究(精神神経学雑誌第116巻第2号/2014))
今後、人手不足や働かなければならない時間が長くなる時代において、一時的にメンタル不調に陥った人材であっても、社会全体で支え、活かしていく取り組みが必要となる。
メンタルヘルスの基礎知識
メンタルヘルスの定義と現状
「メンタルヘルス」と聞くと、心の病気や不調などネガティブなイメージを抱く方もいるかもしれないが、メンタルヘルスとは、精神や心の健康を意味する言葉である。世界保健機関(WHO)では、「人が自身の能力を発揮し、日常生活におけるストレスに対処でき、生産的に働くことができ、かつ地域に貢献できるような満たされた状態(a state of well-being))であると定義している。
企業内メンタルヘルス問題の影響
現在、企業における従業員のメンタルヘルス対策は、社会的にも重要視されている。精神疾患労災請求数も過去最高となっており、近年では職場のハラスメント問題について、全国の総合労働相談コーナーに寄せられた「いじめ・嫌がらせ」の相談件数が相談内容別で11年連続となるなど、社会問題として顕在化している。したがって、企業がメンタルヘルスに取り組まない場合、重大なリスクが生じる。
①従業員のメンタルヘルスが悪化すると、集中力や判断力が低下し、業務効率が悪くなる。
②従業員の満足度が低下し、離職率が上昇する。
③身体的な健康にも影響を与え、病欠が増える。
④企業の評判が悪化し、優秀な人材の確保が難しくなる。労働トラブルや訴訟のリスクが高まる
などである。
企業のメンタルヘルス対策
厚生労働省は、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を定め、事業者に対し、職場におけるメンタルヘルス対策の推進を積極的に進めることを求めている。労働安全衛生調査による過去1年間(令和3年11月1日から令和4年10月31日までの期間)メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は、令和4年は63.4%、また、事業所の規模別にみると、50人以上の事業所はおおむね90%を超える割合となっている一方、10人~29人の事業所は55.7%となっている。なお、大綱において、令和9年までにメンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80%以上とすることを目標としている。
メンタルヘルスケアの取組内容としては、「ストレスチェックの実施」63.1%、メンタルヘルス不調の労働者に対する必要な配慮の実施53.6%、「職場環境等の評価及び改善(ストレスチェック結果の集団(部、課など)ごとの分析を含む)」51.4%となっている。その他では、メンタルヘルス対策に関する労働者への教育研修・情報提供37.0%など、メンタルヘルス対策に取り組み始めてはいるものの、個別性の高いメンタルヘルス不調者の支援に関して、個々の企業で問題点を浮き彫りにして、それに取り組むまでの対策は十分とはいえない。
メンタル不調の早期発見と対応
メンタル不調の代表的な兆候・症状としては、気持ちが沈んだりふさぎ込んだりしてしまうことは誰にでも起こる自然な反応である。ただし、この状態が長期間に及ぶと「メンタル不調」となる。
心の反応としては、悲しみや憂うつ感、不安感、イライラ感、緊張感、無力感、やる気が出ないなどである。
体の反応としては、寝つきが悪く、早く目が覚める、食欲がなくなる、動悸がする、手や足の裏に汗をかくなどである。
行動の反応としては、消極的になる、人との交流をさける、飲酒、喫煙量の増加、身だしなみに気を使わなくなるなどである。
メンタルヘルス不調は、誰にでも出現する症状で、自分自身でも気づきにくいため、早期発見と対応には、人的要素が重要である。職場の全員が、仕事の本題に入る前に、メンタル面を確認し、必要があれば、専門家にリファーするなど、お互いが気を付け合う日頃からのコミュニケーションがベースとなり、管理監督者は自分自身も環境の一つと考え、事業場内外の産業保健スタッフの力を借りながら、職場環境等の改善と相談対応に力を注ぐことが、メンタル不調の早期発見につながる。
企業内の予防と対応の基本
職場においては、仕事によるストレスが原因で精神障害を発病する労働者が増加していることから、メンタルヘルス不調の未然防止が重要な課題となり、2014年6月25日に「労働安全衛生法の一部を改正する法律」が公布され、心理的な負荷の程度を把握するための検査(ストレスチェック)およびその結果に基づく面接指導の実施が事業者に義務付、2015年12月1日からストレスチェック制度が正式に施行されることになった。このストレスチェック制度の目的は、第一次予防であり、労働者のストレスの程度を把握し、労働者自身のストレスへの気付きを促すとともに、職場改善につなげ、働きやすい職場づくりを進めることによって、労働者がメンタルヘルス不調となることを未然に防止することである。
しかし、それを企業側も従業員側も正しく理解して取り組んでいるか、また実施後、高ストレス者として選定され、面接指導を受ける必要があると実施者が認めた労働者に対して、医師が面接を行い、ストレスその他の心身の状況及び勤務の状況等を確認することにより、メンタルヘルス不調のリスクを評価し、本人に指導を行うとともに、必要に応じて事業者による適切な措置につなげるまでが機能しているかという問題がある。
筆者は、医療現場で休職に至った従業員に、毎回面談でストレスチェックを受けたか、その結果の聞き取りを行うと、「会社の評価を気にして、高ストレスとならないよう質問事項を調整して書いていた」「高ストレスとなっても評価に関わるから面談を受けていなかった」という回答が多く、ストレスチェック制度が機能せず、休職まで至っていたケースが散見された。あるいは、教育研修や情報提供を実施していたとしても、一方通行では情報の聞き流しに過ぎない。復職前の準備期間に患者とアサーション(相手も自分も大切にする主張)のワークを実施すると、「あ~そんな研修があったな」との言葉がでてくる。これらは、企業側が教育研修を実施していたにもかかわらず、自分事として捉えず対処が行われていなかったということである。そのため、企業内の予防については、ストレスチェックを実施していても、機能していない可能性があることを認識し、目的や留意点、メンタルヘルス不調が、会社の評価に値しないことを、企業風土として根付くように伝達していくことや、研修を知識レベルで終わらせず、全ての人が自分事として身に付けられるように、予防と対策が基本となる。研修実施の場合も、扱う事例は、本当に従業員が何に困っているかということを把握したうえで、対処策が実施できるようにすることが必要である。
ストレスマネジメントと職場環境の改善
メンタルヘルス不調に陥る労働者の中には、内的要因として、病気や離婚、親の介護や大切な家族との死別など私生活で起きた出来事がトラウマとなり、メンタル不調を起こすケースもある。そこに関しては、医療側に軸足を置くケアが必要となるが、ここでは職場のストレス要因として、労働安全衛生調査でも上位に挙がる「心理的な仕事の負担(質・量)」「職場の対人関関係のストレス」について考えていきたい。
これらは、各企業の事情によってまったく違い、そこに配属された人材がどうであるかによっても個別対応となるが、良くないケースとして、これまでのキャリアが活かされず、まったく専門外のところに配置転換させられる。また専門的な知識や経験に対してフォローも無く、「職務給の査定」に照らし合わせて、最初からできないことを叱責され、休職してしまうケースや、採用時にアシスタントという名目で採用されるが、就職してみると始めからプロジェクトを持たされて仕事の質・量がオーバーし、適応障害になってしまうケースがある。さらに、上長が仕事の配分や調整を行うことができず、強く出る労働者のやり方がまかり通って適応障害になり、退職をせざるを得なくなるケースなどがある。
このような問題は、メンタル不調に陥らないまでも、キャリアコンサルティングの現場でも扱われる。第30回労働政策審議会人材開発分科会(令和3年)の調査結果では、キャリアコンサルティングを行う仕組みがある事業所では、キャリアコンサルティング実施効果として、「労働者の仕事への意欲が高まった」と回答した事業所が最も多く、職場の人間関係においても、専門家に相談経験なしより、相談経験ありの満足度が高い結果となっている。また、メンタルヘルス上の理由による長期休業等が減った(または職場復帰が進んだ)という実施効果も出ている。
この調査結果から、職場には個人だけでは解決できない問題として、手を付けられずにある問題を掘り起こし、キャリアコンサルタントが仲介役となって、メンタルヘルス不調が起こる前に、適切な職場環境の改善にもつなげることが可能だと考えられる。
企業内外の仕組みづくりやキャリアコンサルタント視点の問題として見立てを行い、「業員と組織に対し、自分の立場を明確にして、従業員の利益を守るために最大限の努力を行い、従業員と組織との利益相反等を発見した場合には、相談者の了解を得て、組織に対し、問題の報告・指摘・改善提案等の調整に努めなければならない」倫理綱領:行動規範第12条:組織との関係)という倫理に従い、キャリアコンサルタントが大きな役割を果たせる。また、第一種衛生管理者の資格を取得すれば、労働者の危険または健康障害を防止するための措置、労働者の安全又は衛生のための教育の実施、健康診断の実施その他の健康の保持増進のための措置、労働災害防止の原因の調査及び再発防止策に関することなど、業務の範囲を広げることができることもできる。
サポートと復職支援
ストレスチェック制度をはじめ、サポートと支援については、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」の基本に加え、アウトリーチ(支援が必要であるにもかかわらず届いていない人に対し、積極的に働きかけて情報収集・支援を届ける)の活動が必要となる。気軽に相談できると称される相談窓口が設置されていても、産業医がいたとしても、いまだにメンタルヘルスに偏見がある中、従業員が安心して相談窓口を活用するかという問題は大きい。
筆者が10年間で精神科のリワーク施設で出会った患者は、至極真面目で一人で問題を抱えてしまう方が多かった。面談の中で企業規模や体制について聞き取りを行っても、「知らない」「使ったことがない」「情報が漏れる」「伝えても無理」などという答えが返ってくる。
例えば、厚生労働省から職場のパワーハラスメント防止として、事業主が雇用管理上講ずべき措置の中で相談・苦情の流れも示しているが、ハラスメント対策委員会による協議に行くまでの事実関係の有無で、誤解であるとの判断が下されることが多々ある。それは、ハラスメントを起こした人物は、自らハラスメントを行ったと認めない。という問題と、それが上位者であれば、周囲に聞き取りを行っても、上位者からの報復、あるいは自分が標的になることを恐れて、本人には「大変だね」と労っていても、人事にはハラスメントがあったことを言わないのである。
実際、パワーハラスメント(労働基準監督署で確認)で休職に至った労働者を守るために2年間にわたり対策を講じた例もあったが、企業側のおざなりな対応(研修をして終わる)で、結局陰湿なハラスメントが続き、絶えられなくなって退職したケースがあった。また、相談者への十分な説明もなしに、相談者の怒りが強い(当然の怒りもある)というだけで従業員の話を聴かず、社内の健康管理室からリワーク施設に行けという指示で、休職扱いにされてしまいそうになったケースもあった。このようなケースに対して、当医療機関の院長が企業の健康管理室に対して、適切な問題を提起し、休職に追い込まれず復職を果たされた例もあった。
また、数千人規模の企業で、EAPの相談窓口がある人事担当のケースでいえば、わざわざ外部に助けを求めてくることもある。企業の体制を伺うと、本来あってはならないが、EAPのカウンセラーが受ける相談事は、人事に入ってくる、ハラスメント窓口も人事が対応しており、産業医は、休職、復職の有無だけしか対応しない。表面的には相談窓口が設置されていたとしても、守秘義務が守られず、筒抜け状態の実態があるがために、人事担担当が自分の身に起こったハラスメント問題を相談できず、一人で抱え込んでいることもある。
本来、メンタルヘルス問題は、個別性が高い事案であるため、きめ細やかな対応をしていかなければ、本質的な問題解決とはならず、結局は個々人に任せるだけとなってしまう。そうなると、個人の側も自分の身を守るために各種の制度を活用し、その間企業外でのキャリアを模索することに思いを馳せるようになり、企業にとっても人材流出となって、双方にとってマイナス面が大きくなる。1人ひとりが自己実現のために、自身のキャリア選択を考えていけるようになることが大切である。
フレキシブルな勤務制度と有給休暇の促進
厚生労働省では、年次有給休暇(以下「年休」)を取得しやすい環境整備を推進するため、毎年10月を「年次有給休暇取得促進期間」として、集中的な広報を行っている。「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(令和3年7月30日閣議決定)などにより、令和7年までに年休の取得率を70%と政府の目標に掲げられているが、令和3年に年休の取得率は58.3%と過去最高となったものの、目標には届いていない。
働く人のワーク・ライフ・バランスの実現のためには、企業等が自社の状況や課題を踏まえ、年休を取得しやすい環境づくりを継続して行っていくことが重要である。零細企業の場合は、社長が法の権利としてある有給をとること自体に否定的で、転職を考える相談もある。従業員側は、只々、短期離職のマイナス面を気にして、しかたなく在籍している。その場合、キャリアコンサルタントとしては、個人のメンタル不調を守るために、辞める選択肢を提示しなければならないことは、非常に残念なことである。
実践的な取り組みと成功事例
大手企業の取り組み事例としては、セルフケアの重要性にフォーカスした「健康経営」を推進している会社である。健康経営とは、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実施することを指す。経済産業省は、健康経営の普及を促進するために「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人認定制度」などの顕彰制度を設けている。
国内外の企業によるメンタルヘルスプログラム
現段階では、メンタルヘルスプログラムとしては、厚生労働省から示されている「労働者の心の健康の保持増進のための指針」「心の健康問題により休職した労働者の職場復帰支援の手引き」「ストレスチェック制度」「健康経営」などを活用し、各企業がメンタルヘルス体制を構築し、取り組み始めているところである。ここでは、これまで述べた企業のメンタルヘルスケアのあり方の問題として、「心の健康づくり計画で定める7つの事項」について、見直しをすると、
①事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨を表明する場合、本当にトップが自ら発信しているか、人事主導になっていないか。
②事業場における心の健康づくりの体制整備については、業者まかせになっていないか、専門家との意見交換は対等に行われているか。
③事業場における問題点の把握及びメンタルヘルスケアの実施に関することでは、問題点の把握をどうやって把握していくのか。これらは、「職業選択、職業能力の開発及び向上に関する相談に応じて助言や指導を行う国家資格キャリアコンサルタントを活用しているか」という新しい視点を持てているか。
④メンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保及び事業場外資源の活用に関しては、産業保健総合支援センターや地域窓口を活用しているか。連携は誰とどのように行っているのか。
⑤労働者の健康情報の保護に関することについては、労働者が信頼できるように、厳格に定められているか。そうなっていないのであれば、何が問題なのか。
⑥心の健康づくり計画の実施状況の評価及び計画の見直しについては、各担当の役割が同じ方向に向かって対処できているか。
⑦その他労働者の心の健康づくりに必要な措置に関して、そもそも衛生委員会が機能しているのか。などである。
成功事例の概要とそれによる成果
メンタルヘルス不調者を出さない取り組みの概要と成果を大手企業中心にまとめると、以下の要素があげられる。
産業医面談の機会を定期的に設け、休職した従業員のフォローアップ体制も整えている。独自の復職プログラム「メンタルヘルス快復プログラム」では、自分の性格や価値観、考え方を客観的に見直したうえで、段階に合わせた復職トレーニングを実施して、再発の防止を目標に行っている。
その他
・経営者の考え方に基づき、時間外労働の削減や時間外労働の賃金の割り増しを基準より増やす。
・Eラーニングの健康管理に関する内容を学び続けている。
・企業独自のマニュアルを構築し、従業員に必ずカウンセラーをつけている。
・月に1回のEAPを活用した面談、あるいは産業医面談を実施している。
・企業内に医療職が多数配置されており、連携が取れている。
・ストレスチェックを実施し、専門職の連携が取れている。
・主治医の意見を取り入れている。
・メンタルヘルスケアについて、コミュニケーション、意見交換を行う。
など、メンタル不調者の数値は、減少傾向の成果を上げている。
成功事例の概要とそれによる成果
労働市場において、就業形態の多様化、雇用の流動化の進展、成果主義の導入などにより、働き方や就業意識が大きく変わりつつある中で、メンタル不調に陥る労働者は今後も後を絶たない。
筆者は、これまで、EAPサービス会社に所属し、企業側に出向いて様々な労働者の相談に乗ってきた経験と、医療現場で通院し医療の手を借りながら働き続ける人、まだ踏ん張ってはいるが、会社を去ることを考えている人たちと出会い、貴重な人材が苦しみの中、再起していくサポートをしながら、各機関の限界を感じていた。
休職中については、医療現場での薬物療法や心理カウンセリングが中心となり、通院中の方についても軸足は医療の視点が必要となる。しかし、これまで述べてきたように、企業内で、まだ顕在化していないが、個人では解決できない組織の中で悩みを抱えている従業員や復職後のキャリアを考える支援については、個々の職業能力を存分に発揮できるように、産業保健分野でのキャリアコンサルタントの活躍が期待されるのではないか。キャリアコンサルタント側も、産業分野に関わりを持ちたいと思いつつも、なかなか心理面に携われないもどかしかを感じている方も多いのではないかと思う。産業分野では、多岐に渡る学習は必要であるが、各機関の限界や問題点を踏まえつつ、相談者の中長期的な生き方を軸に、相談者がキャリアに関して持つ問題やコンフリクトの解決及び、ライフキャリア上の役割と責任が明確になっていくなどを、各機関と真の連携を図りながら、相談者と共に考えていく、重要な仕事の位置づけが見いだせるのではないだろうか。
メンタルサポートでキャリアコンサルタントができること
人生100年時代の到来によって職業人生の長期化等により、従業員に求められる能力も変化していく。その中で、メンタルサポートには、企業内外の専門職も含め、多くの人的資源が必要であり、個人情報が保護されながらも、連携していく必要がある。
企業としては、メンタルヘル体制の箱やパンフレットは用意しているが、それが個の相談者にとって、機能しているとは言い難い現実があることを見てみた。連携の観点でいうと、産業医や健康保険室があったとしても、その機関の問題点があるはずである。例えば、企業側が、産業医の本来の職務を理解し、産業医が企業の仕事をどこまで理解して、判断をくだしているのか、どこを向いて仕事をしているのか、動いているのかということなどである。おそらく、医療の分野任せとなっているのではないだろうか。専門職のものの見方は、専門的ではあるが、メンタルヘルスの問題は、それですべてが解決されるものではない。人が再起するためのきっかけの多くは、信頼できる人との出会い、関わり、継続的支援である。つまり、各機関の限界をキャリアコンサルタントが理解しつつ、専門職には専門性を活かしてもらいながら、人と人を繋いでいくことことができるのではないだろうか。
休職に至った従業員は、本人の思い込みや誤解も含め、会社に対する信頼を失っている。もちろん休職中に本人の捉え方の問題(認知の修正)が必要な場合もあるが、所属している事業場から支えられていると感じられると、再起のための力となる。それを踏まえた上で、復職支援のサポートであれば、休職に入る前、休職中、そして職場復帰、職場定着までの一連の関わりの中で、信頼関係を構築していく必要がある。
今では事業場外資源も10年前と比べると充実してきている。残念なことは、多職種連携が強調される中、事業場内支援の支えと、事業場外支援の支えが、人と人との繋がりとして機能していないのではないかと思われる点である。情報サイトも多く立ち上がっていても、それらをどう生かしていくかは、人が役割を意識し、動くこと、人の顔が見える連携をしていくことではないだろうか。
まとめ
ここまでは、主に企業内のメンタルヘルスに関して、キャリアコンサルタントができることを見てきたが、キャリアコンサルタントがこれから活躍できる分野が益々広がってきている。
労働政策研究報告書N.o200(平成30年度)では、キャリアコンサルタントの活動領域の対応可能な領域の自由記述では、最も多かったのは「障害者の就労支援・職業相談」であり、他に「医療機関」「福祉施設」「矯正施設・更生機関(少年院・刑務所等)」「生活保護受給者の就労支援」「生活困窮者の自立支援」など、「医療・福祉領域」とも呼ぶべき領域が多く挙げられた。その他、国や各自治体の各種サービス(ひとり親、高齢者、がん患者、若年等を対象とした自治体の就労支援サービス「公共サービス領域」、職業訓練校、公共職業などの訓練期間、さらにはNPO(個人対象のキャリアカウンセリング等)などについてまとまった数の記述があった。
このような自由記述の回答内容から、従来のキャリアコンサルタントの活動と密接に関連しているが、一方で、従来の範疇(企業・需給調整機関(派遣、ハローワーク、転職・再就職支援)・学校・教育機関(キャリア教育、キャリアセンター)地域(地域若者サポートステーション、女性センター等)から、キャリアコンサルタントが各方面で、多様な役割を果たしていることがわかる。
キャリアコンサルタント側からすると、専門機関への紹介及び専門家への照会は必要であるが、多様化した問題を抱えた相談者に「そこは専門外なので、専門機関へ」というリファーで人とのつながりを途絶えさせてよいのかを考えてもらいたい。
厚生労働省では、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」として、メンタルヘルス・ファーストエイド(こころの応急措置)の考えを参考に「すべての人が安心して自分らしく暮らせる社会を目指して」こころの不調を抱える人への差別や偏見をもつことなく、こころの不調の早期発見とサポートに取り組む、心のサポーターを2033年度までに100万人を目指すことを掲げている。
国家資格となったキャリアコンサルタントは、キャリアコンサルティング行うために必要な知識として、人を支援するためのキャリア理論、カウンセリング理論やメンタルヘルス、発達課題、人生の転機、個人の多様な特性の知識など幅広く学んでいる。それらを知識だけに終わらせず、広い範囲の相談者に、キャリアコンサルタントの力を活かしていく新たな専門性や役割を担っていくことが期待される。
筆者

・公認心理師
・1級キャリアコンサルティング技能士
・精神保健福祉士
・第一種衛生管理者
・メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅰ種
10年以上、精神科・心療内科 リワーク施設にて、復職支援・心理カウンセリングに携わり、現在はオンラインで年間1000件以上の心理カウンセリング・キャリアコンサルティングを実施しています。LECの講座では、養成講座、更新講習(認知行動療法・発達障害の就労支援)国家資格、2級技能士、1級技能士実技試験対策講座、メンタルヘルス・マネジメント?検定試験Ⅱ種合格講座を担当。
自身もスーパービジョンを受けながら、キャリアコンサルタントの事例指導・スーパービジョンを実施し、更新講習の時間となる「事例指導証明書」を発行しています。
特定非営利活動法人キャリア・インディペンデンス 代表理事
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