新しい資本主義実現会議「三位一体の労働市場改革の指針」を通したキャリアコンサルタントの役割とは?日本を牽引するキャリアコンサルタントの必要性について
本コラムは、政府が新しい資本主義実現への重要なステップとして位置付ける「三位一体の労働市場改革」を説明するとともに、この改革(特に、労働移動の円滑化)が現実化する際にキャリアコンサルティングが必要とされること、そして、今後の時代に求められるキャリアコンサルタントの心構えを解説するものです。
<読んでほしい方>
こんな方におすすめ!
●グローバル展開している大企業にお勤めの方
●キャリアコンサルタント資格を取得している、もしくは、これから取得しようとしている方
●職務給(ジョブ型人事)導入を進めている、もしくは導入を検討している人事部にお勤めの方
●継続的な賃上げ、リ・スキリング、新しい資本主義といった言葉に関心を持っている方
●キャリアコンサルタントとして、これからの労働市場や働き方について理解を深めたい方
●所属する企業内でのキャリアコンサルティング実施について関心がある方
- 目次
1.三位一体の労働市場改革とは?3つの重要指針
1-1. リ・スキリングによる能力向上支援
日本企業における人材育成は現場での職務経験に基づくOJTが大半です。しかし、企業を取り巻く競争環境はより厳しくなっています。特に、コロナ禍を経て、わが国では行政手続をはじめとして、企業内の仕事の進め方においてデジタル化が遅れていることが明らかになりました。OJTでは現状の延長のスキル習得にとどまるため、環境変化に適切に対応するためにはOJT以外(Off-JT)で新しい知識・スキルを学ぶことが必要となります。日本企業の人への投資(企業研修、従業員の資格取得への支援など)は、OJTを除くと、対GDP比で0.1%にとどまり、アメリカ(2.08%)、フランス(1.78%)などの先進諸国に比べて極度に低い水準です。しかも、近年、人への投資金額は縮小傾向です。
そこで、政府は、賃上げを継続的なものとするために、労働生産性の向上が必要であるとして、三位一体労働市場改革の指針・1番目に「リ・スキリングによる能力向上支援」を挙げています。具体的には、高い賃金が獲得できる分野、高いエンプロイアビリティ(Employ(雇用する)とability(能力)を組み合わせた言葉で、転職の際に評価される能力を意味します)が期待される分野として、IT、データアナリティクス、プロジェクトマネジメント、技術研究、営業/マーケティング、経営・企画、観光・物流などが例示されています。なお、ITといっても、プログラミングの勉強に限定するべきではありません。企業内の仕組み全てでデジタル活用できる余地を探して常に改善活動を継続することがDX(デジタル・トランスフォーメーション)です。ノーコード・ローコード(プログラミング知識を必要としない)のアプリケーション(SaaS)も増えているので、プログラミングの知識・スキルの重要性は少なくなっています。業務改善・デジタル化のためには、顧客へ商品・サービスを提供するまでにどのようなプロセスを経ているか(自社内はもちろん、取引先も含めたサプライチェーン全体)の理解や、顧客や取引先などの情報が社内でどのように流れているかの理解がより重要です。
さらに、「個人への直接支援の拡充」が指針で書かれています。現在、在職者への学び直し支援策としては、企業経由の人材開発支援助成金・公共職業訓練などが75%を占めており、個人向け(教育訓練給付金)は25%だけです。今後は、働く個人が主体的にOff-JTでの新しい知識・スキル習得ができるように、個人への直接支援の割合を増やしていく方針が示されています。
1-2. 職務給、ジョブ型人事の導入
三位一体労働市場改革の指針・2番目は「個々の企業の実態に応じた職務給の導入」です。職務給、すなわちジョブ型人事とは、@職務の明確化(職務記述書と呼ばれる、当該ポジションに就く人が果たすべき役割や必要な能力)、A職務の重さに応じた報酬設定、B職務の達成度を評価する仕組みの3つが揃っていることを意味します。
日本の多くの企業(特に、グローバル展開していない国内で完結している場合)は、「人」を起点に組織を組み立てることが多く、ポジションごとの役割は流動的で、誰がそのポジションに就くかによって役割(職責)が変わってしまいます。そして、仕事の進め方が属人的で、デジタル化・効率化などの業務改善が進まない(改善に反発する従業員が、意識的・無意識にサボタージュする)という弊害や、その従業員が退職したり、別の人がそのポジションに就いたりすると、業務が滞ってしまうという弊害が起きます。
属人的な組織作りから(一部であっても)脱却するために、職務給(ジョブ型人事)の導入が有効とされます。具体的には、以下の3つの効果があるとされます。
1.若手の優秀な人材確保&処遇の適正化
年功賃金が基本となっている人事制度では、年齢の高いベテラン従業員があまり重くない職責に就いて高い給与を得ているケースがある。これに対して、デジタル化や新しいビジネスを進めていく際には若手の優秀な人材を抜擢する必要がある。職務給を導入すれば、ベテランの給与を引き下げ、重責を担う若手の給与を引き上げることが可能となる。
2.将来有望な従業員の退職防止(リテンション)&専門人材の獲得
若手、特に優秀な人材ほど、成長・昇進の機会が少ない職場からは離れていってしまう。ポジションごとに必要な能力・知識を明示することで、向上心にあふれるポテンシャルのある若手従業員の奮起を促すことができ、退職防止ともなる。データ分析やWEBマーケなど労働市場で高い給与を得ている(転職しやすい)専門人材を、より良い処遇・報酬で獲得するためにも職務給が必要。
3.グローバルな人材の適材適所
日本以外の国では(欧米だけでなく、アジア諸国も)役割・職責に応じた報酬体系・人事制度が一般的である。グローバル展開している企業においては、日本だけで通用する人事制度は、日本の従業員を海外赴任させたり、海外から優秀な人材を国内へ転勤させたりする際に大きな支障となってしまう。
1-3.労働移動の円滑化
三位一体労働市場改革の指針・3番目は「成長分野への労働移動の円滑化」です。今は多くの人が100歳まで生き、健康であれば70歳を超えても働き続ける時代です。大学を卒業して新卒一括採用で入社した1つの会社で50年近く働き続けることは、現実的ではありません。特定の企業内だけで通用するスキル・知識ではなく、業界横断で通用する専門性(国家資格はその代表)を持って、成長分野で業績が伸びている(その結果、処遇・給与も高い)企業への転職を促すことが、日本経済の成長(産業構造の転換)と働く人自身の明るい将来の両方にとって必要である、という発想です。
そのためには、「会社から与えられた仕事を全うしていれば、会社が自分のキャリアについて定年退職まで面倒を見てくれる」という意識を払しょくする必要があります。ここでキャリアコンサルタントが必要となります。指針内では、デンマークにおける転職・キャリアアップに関する助言について、以下のように記載されています。
デンマークでは、政府が、賃金・求人といった客観的な指標を民間から集め、各職種の見通しを、緑・黄・赤といった形で半年ごとに明示。デンマークのケースワーカーはこれを参考に、良い職業に移動できるように労働者を指導する。失業給付等の補助金の支給にあたっても、ケースワーカーのコンサルを受ける。ケースワーカーの経歴は様々だが、IT技術を有し、指導についてのリ・スキリングを受けた者が選ばれている。
そして、日本のキャリアコンサルタント(6.4万人)についても、「求職・求人に関して官民が有する基礎的情報を加工して集約して、共有して、その基礎的情報に基づき、働く方々のキャリアアップや転職の相談に応じられる体制を整備する」と指針内で書かれています。
2. 三位一体の労働市場改革が注目される背景
2-1.新しい資本主義実現会議における岸田首相の発言
2023年5月16日、第18回新しい資本主義実現会議(三位一体労働市場改革の指針について議論された)の締めに、岸田首相は以下のように発言しています。
三位一体の労働市場改革では、構造的な賃上げを通じ、同じ職務であるにも関わらず、日本企業と外国企業の間に存在する賃金格差を、国ごとの経済事情の差を勘案しつつ、縮小することを目指します。
改革の第1の柱は、リ・スキリングによる能力向上支援です。個人への直接支援を拡充し、教育訓練給付については、高い賃金・就業可能性の向上が期待される分野について、補助率や補助上限の拡充を検討します。また、在職者によるリ・スキリングを強化するため、雇用調整助成金については、例えば30日を超える雇用調整となる場合、教育訓練を求めることを原則といたします。
第2の柱は、職務給、ジョブ型人事の導入です。人材の配置・評価方法、リ・スキリングの方法、賃金制度などについて、中小・小規模企業の事例も含めて、年内に事例集を作成し、個々の企業の実態に応じた導入の参考となるようにいたします。
第3の柱は、労働移動の円滑化です。求職・求人に関して官民が有する基礎的情報を集約、共有して、キャリアコンサルタントが、情報に基づき、個人のキャリアアップや転職の相談に応じられる体制を、整備いたします。また、失業給付制度について、自己都合離職の給付要件を緩和し例えば1年以内にリ・スキリングに取り組んでいた場合などについて、会社都合離職と同じ扱いとします。
これらの三位一体の改革を進める際、格差の是正も大切です。最低賃金の引上げを図るとともに、中小・小規模企業の賃上げ実現のため、労務費の転嫁の在り方についての指針を年内にまとめるなど、価格転嫁対策を強化いたします。
「1.三位一体の労働市場改革とは?3つの重要指針」で説明した内容の要約ともなっています。この改革を実行することによって、継続的な賃上げが実現し、格差が是正されるという狙いも述べられています。この発言によって、キャリアコンサルタントという資格がより注目されるようになりました。
2-2.「キャリアは会社から与えられるもの」から「一人ひとりが自らのキャリアを選択する」時代へ
三位一体の労働市場改革が政府の目玉政策として提唱される背景には、日本企業におけるエンゲージメントの数値が国際比較において極端に低いことがあります。
エンゲージメントとは、「従業員が自分の仕事に熱意をもって、自社(職場でも可)に愛着・思い入れをもって積極的・主体的に働いているか」を意味します。従業員満足度(Employee Satisfaction)と近い概念ですが、従業員満足度は給与や福利厚生、労働時間などへの満足度を測るのに対して、エンゲージメント・スコアは、「仕事にやりがいを感じていますか?」「家族や友人に、自社へ就職することを勧められますか?」「自分の意見が部署内で尊重されていると感じますか?」といった質問によって測定されます。このスコアが国際比較において日本は最下位に近いのです(下記、2021年12月7日開催の第1回未来人材会議における「資料4 事務局資料」参照)。
従来の日本型雇用慣行においては、働く人の知識・スキルが当該企業(個社)固有のものであり、同一業界であっても他社では通用しない(その結果、転職後の給与水準が上がらない)という問題がありました。そして、「企業側が行う人材育成の中心はOJTであり、従業員の汎用的スキルを高めるための投資を行わない」&「OJT中心の育成でも、従業員は不満を持たない。そもそも社外学習・自己啓発を行っている従業員は少数派」という構造的問題点があります。その結果、「転職意向は低いのに、今の会社で働き続けることの意欲も低い」状況になっているのです。
出典:経済産業省ウェブサイト(https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/mirai_jinzai/pdf/001_04_00.pdf )
3. 大企業だけでなく、中小企業も受ける影響
3-1.リ・スキリングを通じたキャリアアップ支援制度
前述のように、キャリアは「会社から与えられるもの」ではなく「一人ひとりが自ら選択するもの」となります。企業が従業員を選ぶ、という一方的な関係ではなくなります。@会社は優秀な人材を獲得・定着してもらうために成長の機会を提供し、A従業員はリ・スキリングに主体的に取り組み、B従業員が自身のスキルにあったポジション・処遇を得られるよう会社と交渉(キャリアについての対話)を経て、会社に残るか転職するかを決定する、という「選び、選ばれる」双方向の関係となります。
この影響は中小企業にも及びます。2022年から、コロナ禍が少しずつ落ち着いてくるとともに、燃料費の高騰、円安などの影響によって、国内でもインフレが進行しました。その結果、インフレを考慮した実質賃金は下落傾向となっています。2023年に入り、大企業を中心に、大幅な賃上げ、賞与の増額が実現しましたが、中小企業は小幅な賃上げにとどまっています。しかし、この10月から最低賃金が1000円を超えることが決まりました。中小企業においても、賃上げを継続的に行っていくことが求められます。そのためには、従業員一人ひとりが新しい知識・技能を高め、会社の業績に貢献して、給与・処遇も高まっていく、という好循環の達成が不可欠です。
リ・スキリングを通じたキャリアアップ支援制度は、どんな規模の企業にとっても喫緊の課題です。特に、中小企業の場合には、以下の3点に注意して制度構築を図ります。1つ目は、新しい知識・技能を学ぶことが推奨される社内風土を作ることです。人事異動が少なく、属人的な組織運営がされていると、既存の業務のやり方を変えることに消極的になりがちです。定期的な人事異動、若手の抜擢は仕事のプロセスを変えることに繋がります。2つ目は、現場から新しいサービスや業務改善の提案が出てきた時、意見を出してきた従業員へ「お前がやれ」と丸投げすることがないようにすることです。何か意見を言うと自分の負担が増えてしまう(しかも、報酬は増えず、周囲の従業員や他部署からは迷惑がられる)ようでは、スキルを発揮することが得ではなく損になってしまいます。新サービス開発や業務改善は、複数部署にまたがる課題であり、現場の特定の人に丸投げするものではありません。経営陣自身が旗振り役となってプロジェクトチームを組み、意見を出してくれた従業員にはチームの一員として関わってもらう(その分、処遇も良くする)、といった配慮をすることで、挑戦を推奨する企業文化となります。最後、3つ目は、リ・スキリングの対象として、新卒・若手や中堅社員、管理職に限定せず、50代以上の従業員(新卒から叩き上げのベテランだけでなく、中途採用で10年程度経った人も含む)も対象とすることです。中小企業の人材育成は、そもそもOJT中心であり、Off-JTは少ないですが、そのOff-JT対象は、新入社員向けと階層別研修に限られています。しかし、人生100年時代、70歳を超えても働き続ける時代においては、シニア社員の戦力化も必須です。中小企業においても、時給で働いているアルバイトは職務給に近い考え方です。年功的な報酬設定は少なく、職責の重さ・達成度によって時給が変動していくことが多いです。そこで、シニア従業員について、定年を機にジョブ型の処遇に切り替えることで、部分的にジョブ型人事を導入できます。この場合、シニア従業員に対してもリ・スキリングの機会を提供することが必須です。
以上のように、中小企業において三位一体労働市場改革の波に対応することは、大企業以上に大変です。経営陣が陣頭に立って風土を変え、プロジェクトを推進し、人事制度を変えることが求められるからです。しかし、政府は成長分野への(優秀な人材の)転職を促す政策を実行しています。人材会社に対して補助金を出しています。在職者の登録を増やし、転職によるキャリアアップの道筋を示し、そのためのリ・スキリングの場を提供する、そして、具体的な転職先とのマッチングを行う、という一連の支援に取り組む人材会社が増えています。
給与を少し上げるだけで、従業員へリ・スキリングの機会・自己成長の機会を提供できていない中小企業は、上記のような人材会社にとって、人材の草刈り場となってしまいます。自社のビジネスモデルを成長分野へ業態変化させて、外部から優秀な人材を獲得する、という発想もあり得ますが、大きな変革を実現させるためには、既存社員の戦力化・成長も必須です。どんなに立派な戦略を作っても、戦略を実行する「人」がいなくなってしまっては、単なる紙切れ・計画となってしまいます。優秀な人材を逃がさないよう三位一体労働市場改革への目配りが必須です。
3-2.個人に対するキャリア相談(部下と上司の対話)
企業によっては、すでにOff-JTの教育プログラムとして、何百ものEラーニング(オンデマンドで受講できる動画コンテンツ)を受け放題で従業員に提供している場合があります。しかし、従業員からすると、あまりに選択肢が多くて、何を選んでよいか分からないという声が多いようです。そもそも、何か新しいことを学ぶには課題意識が必要です。
従業員が自ら決定してリ・スキリングに取り組むことが理想的ですが、実際には、上司からの働きかけ&学習への支援(監視)がないと、新しいことに挑戦しようとは思わないのが普通です。受け放題ではなく、会社側でOff-JTのカリキュラムを指定して、社内から選抜形式で受講させたとしても、事前の課題意識(なぜ、自分がそれを学ぶのか、これを学ぶことで自身のキャリアにどのようなプラスの影響が生じるのか)に欠けていたら、学習効果は望めません。
部下と上司との対話は、業務の進め方や人事考課に関するものだけでなく、リ・スキリング、キャリアアップについても定期的に行うことが重要です。具体的には、以下のようなステップを踏みます。まず、部下が担当したいと思っている業務、就きたいポジションなど、本人の意向を確認します。この際、プライベートとのバランスや人生設計、働く上で大事にしている価値観といった個人的な話も出てくるでしょう。上司としては、古い価値観で従業員の考えを否定することがないよう、オープンマインドを心がけましょう。次に、会社として、その従業員に何を期待しているかを伝え、当面(今から2、3年後)のキャリア目標を定めます。その目標に対して、従業員に欠けている経験や知識・スキルについて、対話を通じて互いに理解するようにします。その後、必要な経験、知識・スキルをどのように獲得するか計画を立てます。この計画は上司が作るものではなく、人事部や社内のキャリアコンサルタントの指導の下、従業員本人が作るべきです。最後に、上司はその計画(部署異動を伴うケースが多い)を承認します。Off-JTでの学習計画の場合には、計画通りに勉強が進んでいるかを上司が1on1の面談でチェックしていくという監視の役割を担うことも必要です。
このようなキャリアに関する対話は、従業員のキャリアアップはもちろん、上司自身も自分の働き方を見直す機会となります。上司自身も、自分の成功体験を一部捨てること(アンラーニング)、従来の経験では対応できない新規事業や社外の活動(地域活動やボランティアなど)参加による越境的学習が求められる時代です。この学び直しについては、次章で説明するキャリアコンサルタントの関与が大事になってきます。
4. 企業間・産業間の労働移動の円滑のためますます高まるキャリアコンサルタントの必要性
2-1で紹介した岸田首相の発言にもあるように、成長市場への円滑な労働移動のためにはキャリアコンサルタントの役割が重要となります。そのためには、@どの業界で、どのような職種に就くと、どのような処遇・給与を得られるか、A業界ごとのキャリアアップのモデルケース、B転職候補の企業における研修(OJT、Off-JT両方)の充実度などの情報を集める必要があります。キャリアコンサルタント個人がこういった情報を集めることは困難ですので、政府は、(様々な情報を保有している)人材会社がキャリアコンサルタントを活用することを想定しています。従来、人材会社は多くの求人情報と登録者のデータベースを増やし、マッチングの精度を高めることを自社の優位性としてきました。今後は、登録者自身のスキルアップ(学び直し)や、自身でキャリア構築をしていく姿勢を伸ばしていくという「人材育成」の側面で他社と差別化できる人材会社が業界をリードしていくものと推測されます。そのために、キャリアコンサルタントが人材会社とタッグを組んでいくことになります。
人材会社との提携以外にも、自社内に複数事業を保有していて、成熟分野から成長分野への従業員の社内異動を円滑化したい企業においても、キャリアコンサルタントの活用が見込まれます。特に、上司として部下のキャリア相談に応じている管理職や50代以上のシニア従業員については、人事部よりも外部の専門家の方が、新たな部署・ポジションへの異動へ導きやすいと言われています。なお、企業内に入ってキャリアコンサルティングを行う場合、人事部との役割分担・情報共有が論点となります。相談に来る従業員から、会社には知られたくないが、その人のキャリア構築には影響を与えるプライベートな事情(例えば、妊活をしていたり、家族の介護負担があったり、子どもの不登校だったり)を聞いた場合、基本的にはプライバシー保護の観点から、会社側へ個人情報を伝えるべきではありません。もっとも、専門家としての判断で、その個人情報を従業員自身が会社側へ伝えることが、その従業員が働き続ける(キャリア構築)上で有益となると思われる場合、会社へ申告するようアドバイスすべきです。
キャリアコンサルタントとして、クライアントとの信頼関係を構築したり、従業員自身が主体的に課題に取り組むよう促したり、様々なカウンセリング技法を身につけていることは当然として、もう1点、留意してほしい心構えがあります。コンサルタントの付加価値は、当事者(クライアントたる従業員はもちろん、依頼主である人事部や人事会社も含む)では気づけないような俯瞰・広い視野の考え方・意見を出せる点にあります。本コラムでは、三位一体の労働市場改革を中心に解説してきましたが、日本が直面する課題は様々です。コンサルタント自身が自身の得意分野(業界)について継続的に情報収集を深めていく生涯学習に取り組むことが肝要です。
5. まとめ
キャリア(Career)という言葉の語源は、馬車が道を通る際の車道(轍)です。その人がたどってきた経歴、職歴は「過去」であり、変えることはできません。しかし、過去をどのように評価して、今生きる際にどのように生かすか、という「過去の自分への評価、そこから得た気付き」を変えることは可能です。家族や友人と辛い別れがあったとして、死んだ人、自分から去った人は戻らないとしても、その別れが今の人生にプラスの価値をもたらすように生き方を変えることはできるかもしれません。
前述のように、コンサルタントの価値は第三者(部外者)だからこそ気づける発想・考え方を思いつく点にあります。外部の環境変化が激しい中、従業員のキャリアにも予想外のことが起きがちです。過去の「失敗」を再評価して、新しい部署への挑戦を促すよう腹落ちさせ、行動へ導くことができるか、コンサルタントとしての力量が試されます。
最後に、スイスの哲学者アンリ・フレデリック・アミエルの言葉を紹介して、本コラムを締めます。クライアントが一歩を踏み出せるよう促す際に使ってみてください。
決心する前に、完全に見通しをつけようとする者は、決心することはできない。
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監修者情報
株式会社東京リーガルマインド 代表取締役社長 反町雄彦
1998年、東京大学法学部在学中に司法試験合格。卒業後、株式会社東京リーガルマインド(LEC)入社。司法試験対策講座の講義を行い、初学者向けの入門講座から中上級向けの講座まで幅広く担当し、多くの短期合格者を輩出。2006年取締役を経て2014年LEC代表取締役社長に就任。LEC会計大学院学長兼務。
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