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2000.vol.2

コラム『続・法科大学院構想の行方 〜地方大学・私立大学はど〜なる?!』
<評論家>美浪 法子

  泥沼化してきた法科大学院構想


 1999年7月の司法制度改革審議会発足を契機として、大学、弁護士会、経済団体、民間政策シンクタンクを中心に新しい法曹養成制度としての法科大学院構想が続々と発表されている。特に、大学の動きが目覚しい。同年9月の東京大学を皮切りに、神戸大学、九州大学、一橋大学、熊本大学等の国立大学をはじめ、私立大学も負けじと今年に入って明治大学、上智大学、早稲田大学で独自の構想が発表されている。
 後に検討するように、東大試案以後の各大学の見解は、それぞれのバックグラ
ウンドが如実に現れ、非常に興味深いものがある。それは即ち、(1)当該大学が文部省より法科大学院の認定を受けられるかどうか(認定問題)、(2)認定を受けた大学では、何人の学生を受容することができるか(定員問題)、(3)認定を受けられなかった大学法学部は、その存続が保証されうるか(法学部存廃問題)、(4)認定を受けた私立大学では、法科大学院運営の基盤固めの一助として国から充分な補助金が得られるか(私学助成問題)、などの問題が各大学(法学部)間の力関係、これまでの司法試験合


格実績の違いを背景に、はっきりと浮き彫りにされている。数年後の制度化を前に、各大学で法科大学院設置という莫大な権益の争奪戦が始まり、いまや泥沼化している。
 1999年12月21日の審議会論点公表では、人的インフラ整備の手段として法曹養成制度の在り方が検討項目の一つとして挙げられた。今後暫くは、各界で法科大学院構想シンポジウムが盛んに行われ、駆引きが続くであろう。
 筆者自身、東大試案よりもそのアンチテーゼとして発表された地方国立大学、私立大学の構想に評価すべき点を多々見出している。以下、これまでの地方国立大学、私立大学の構想の中から、特に熊本大学、上智大学を採上げ、構想実現のメリットについて言及したい。


  地方における法科大学院の必要性 −熊本大学−


 1999年12月4日、熊本大学においてシンポジウム『地方における法科大学院の必要性 ―連携と協力への模索―』が開催された。これまでの構想は、事実ほとんど大都市圏の大学から発せられたものであったが、熊本大学は九州の有力国立大学という位置付けでしかなく、毎年それほど多くの司法試験合格者を輩出していないにもかかわらず、ここに地方大学の先陣を切って独自の構想を打ち出したことには大きな意義がある。
 熊大シンポジウムでは、地方の法科大学院であるからこそ可能な実務法学教
育の利点が多く提案された。パネリストの遠藤直哉弁護士からは『Smaller is Better!』と題し、小人数の法科大学院を全国に設置することが提案された。、(1)教育の質の高度化、充実化が図られること、(2)現行法学部をそのまま存置し、若干の組織拡充のみで法科大学院を設置できること、(3)中坊公平審議会委員が主張しているところでもあるが、各地方に根ざした法曹を輩出することができること、(4)地元の弁護士会との連携が可能となること、等が小人数大学院の利点として挙げられている。もっとも、(1)と


(2)については必ずしも小人数制から直接に導き出せる利点とはいえないが、(3)と(4)については、司法制度改革審議会の目的である「国民に利用しやすい司法制度の実現」のため、全国で均衡のとれた人的インフラ整備に最も効果のある方策といえる。実務法律家が用いる法律は全国同一であるが、法にあてはめる社会的事実は千差万別である。法律家は地域レベルで活動するかぎり、法的サービスの需要を見極め、地域の特性、歴史、住民の法感覚にも通じていなければならないのである。
 筆者は、法科大学院設置自由化論者であるが、その移行期措置として小人数法科大学院を全国に設置することには賛成である。さらに、国立の総合大学であれば、現在法学部が存在しなくとも、法科大学院を独立して設置することも当然検討すべきではないだろうか。


  私立大学の独自性を活かした法科大学院 ―上智大学―


 私立大学サイドでも、法科大学院構想が活発に提案されている。ここでは、2000年1月22日に行われた上智大学シンポジウムの内容に触れたい。
 上智大学・酒巻匡教授の講演では、小人数演習教育を基幹とする法科大学院の中で、(1)先端的法分野(知的財産法、金融取引法、経済法、環境法、国際取引法、法と経済学など)の体系的教育を施すべきこと、(2)基礎法学、外国法および隣接諸学の履修を充実させること、(3)模擬裁判・模擬弁論等による臨床的訓
練を導入すること、を提言している。特に、(1)についてはわが国の実務法学教育の現状として、大学サイドが遅れている分野であることから、私立大学はこの点、独自性をどんどん発揮すべきではないだろうか。例えば、同じ法科大学院であっても、とりわけ経済・金融法に精通した実務法律家を養成するもの、他には高齢者・社会保障法、知的財産法、環境法、国際人権法、など 専門色の強い私立法科大学院が誕生することに期待したい。また、(2)については上智など外国


語教育に実績のある大学が、渉外法実務の教育を積極的に行うべきであろう。従来のような、実務に即応しない外国語文献購読は何ら意味をなさない。(3)については、先ほど熊本大学のところで触れたように、地元の弁護士会、裁判官0B、検察官0Bの協力を得つつ、法科大学院生の主体的理解を育むトレーニングがなされることに期待したい。


  法科大学院は全国で100大学、都道府県レベルで最低1校は必要


 熊本大学、上智大学の構想をもとに、地方大学と私立大学のもつメリット、展望について述べた。法科大学院は東大をはじめとする旧帝国大学に独占されるべきものではない。全国どこでも実務法学教育が受けられるよう、国公立・私立あわせて100大学は必要であり、また地域偏差を解消するために、各都道府県で最低1校は確保すべきである。
そこでどうしても、現在法学部を置いていない大学についても、法科大学院のみの設置を認めるというアイデアが必要となるのである。
 法科大学院の全国定員を3,000人と仮定すると、1校30人規模となる。それぞれの大学院で、個性と専門性が豊かな法律家を養成することこそ、司法制度改革の要諦である。


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