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2000.vol.2


続・カリフォルニア弁護士日記



「初心に戻って」
米国カリフォルニア州弁護士
石鍋法律事務所
石鍋賢子
visalaw@ishinabe.com


今まで「カリフォルニアLawクリッピング」「弁護士日記」などのコーナーで記事を書かせていただいていたが、いよいよ今回が最後となった。
 弁護士の資格を取得したのが7年前、原稿を載せていただくようになったのはまだ新米だった頃だ。弁護士試験の結果待ちの頃は、ある小事務所に所属していた。弁護士見習(ロークラーク)として、いろいろなケースを抱えていた。(実際に、現在に至るまで、ひとつの大きなケースを取り扱う、というより、常に難易度的に中程度以上の複数のケースが同時進行していたので、弁護士になって初
めてのケースは、と聞かれても、覚えていない。)
 ロークラークのぶんざいでは自分の個室のオフィスなど当然与えられず、他の秘書たちと机を並べて、いささか場違いな思いをしながら、そして彼女たちのひっきりないおしゃべりに悩まされながら、判例を調べたりしていた。ロースクールに通いながらパラリーガルとして働いていた、別の法律事務所では、窓つきではなかったが、一応個室のオフィスを持っていたため、初めはその待遇の差が不思議でもあった。
 階級的には、上から弁護士(パートナ


ー、アソシエート)、ロークラーク、パラリーガル、リーガルセクレタリー(法務秘書)、という順なので、ロークラークはパラリーガルより身分が上のはずだが、その道のベテランで、実践知識も豊富なパラリーガルが、経験の浅く、半人前のロークラークより好待遇な場合も多々ある。
 結果が出るまでの3ヶ月は非常に長かった。試験の準備より、結果を待つ間のほうが辛かった気がする。合格発表の日、サンフランシスコの弁護士協会本部に電話をして合格を確認すると、場所も
わきまえず、大きな歓声を上げてしまった。
 カリフォルニア州弁護士試験(bar exam)に合格すると、約3週間後に宣誓式があった。アメリカの市民権取得と同じで、いくら書類審査(この場合は試験)にパスしても、宣誓式を済ませないと最終的な認可が下りない、というのは何だか旧式な感じがしないでもない。とはいえ、一堂に集まった新米弁護士に囲まれ、儀式にこだわるのもまんざらではないと思った。要するに、宣誓そのものに絶対的な意味があるのではなく、晴れ姿


を家族や友人に見せるために、宣誓式という場が設けられているのだった。これを済ませて、初めて弁護士を名乗れるのである。
 その後早速名刺を作ってもらい、窓付き・個室のオフィスに移った。窓付き、と言っても、ランクがあり、シニアな弁護士になるほど、景色のよく、広いオフィスを与えられる。さらに、パートナー格だと、コーナーオフィスで、部屋の2面が窓だったりする。デスク・本棚などの家具も、パートナーになると、数段上の高級品になる。そのこだわり方は極端でもあり、初
めは滑稽でさえあった。自分のオフィスの見栄えの良さが実力と比例するかのようであった。クライアントの為に正義を求める弁護士が、自分のオフィスの内装にこだわるのは、何とも利己的・物質的なようだが、いわく、「これまで他人よりも努力を重ね、高い学費を払ってロースクールに通ったのだから、何も恥ずべきことでなない、むしろ自分へのご褒美だと思ってエンジョイすればよい」というのがアメリカ人弁護士の考え方のようだ。
 また、デスクといえば、「弁護士の机」イコール書類が山積みの、雑然とした大き


な机、を意味する。職業柄ペーパーの山で、床にもファイルが並べられていたりする。特に訴訟専門の弁護士のオフィスには、関連書類の入った書類保存用のダンボール箱が必ず山積みになっている。
 さてその後、大手法律事務所へ移り、更に移籍を経て、現在に至る。ちなみに、今の私のオフィスはダウンタウンの13階にあり、壁の一面が窓で、サンディエゴ湾が見下ろせる。自分の好みで家具を揃え、ワイン色の皮張りの椅子に掛
けている。机の上は、書類が山積み。一方の壁には額入りの卒業証書・弁護士免許、その反対側の壁には和風の絵が掛かっている。などと書くと贅沢を吹聴しているようで申し訳ないが、独立して開業した以上、これはひとつのステータスシンボルで、多少の演出も必要なのだ。
 とはいえ、現在に至るまでいろいろな方に支えられてきた。人とのつながりがあって初めて今の自分があったと思う。これからもその気持ちを忘れずに前進を続けたい。


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