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電子政府とは |
最近、『電子政府』という聞き慣れない言葉が、国の政策担当部門で話題に上がっている。もっとも、電子政府とは、政府機能の全コンピュータ化、無人化を意味するものではなく、各種行政手続、行政サービスの電子化、ペーパーレス化を推進する政府のことをさす。電子政府の実現は、国民の行政機関に対するアクセスを容易にするばかりか、この分野に関連する基幹産業を大幅に成長させるメリットがある。 まもなく、国民誰もがインターネットを取扱う時代がやってくるだろう。それ故、従 |
来の書面による行政手続がますます非効率であるとの評価をうけることになる。また、それは私人間の契約(商取引など)についても同様である。いわゆる電子商取引(Electoric Commerce)が盛んになればなるほど、経済は格段に活性化するが、取引の相手方が見えていないため、本人かどうかの確認、契約締結能力の確認、決裁システムが不十分であると、たちまち取引市場は大混乱に陥る。この点、政府が検討している『電子商取引法案』では、本人の電子署名を認証する第三者機関の認定を創設しよ |
うとしているが、マルチメディア時代の到来が視野に入っていない現行民法、商法その他関係法令の抜本的改正を含めた、電子商取引市場のセーフティネットの構築を一層推進すべきである。 |
電子政府と士業 |
マルチメディア時代における行政手続、商取引とは具体的にはどのようなものか。それを法的にサポートする 士業にはどのような活躍が期待されているのか。 まず、電子政府の実現に向けて、ワンストップ行政サービス、電子商取引への対応を率先したのは行政書士会であろう。日本行政書士会連合会が中心となって、行政書士のマルチメディア・ネットワークを構築し、住民票の写し、印鑑証明、所得証明、転出・転入届の申請、交付が1か所の窓口(ワンストップ)で受けられるようにする構想がすすめられ |
ている。さらに、電子商取引の整備については、取引の安全を図るために行政書士会自身が認証機関を設置しようと試みている。行政書士が取扱う文書は何千種類にも及ぶことから、行政へのアクセスの仲介役、アドバイザーとして行政書士の役割はますます重要になる。 特許などの工業所有権の出願を扱う弁理士も、電子政府化の潮流の真っ只中にいる。特許庁では特許出願に関するペーパーレス化を1990年12月より始めているし、1998年4月からは電子出願ソフトを無償交付し普及させたことでパソ |
コン電子出願が著しく増加している。2000年度政府予算案でも「電子特許時代」に対応した基盤整備のため、415億円が計上されており、電子情報形式の国際標準化対応などの施策が予定されている。情報・通信システムの進歩は人類社会にとって望ましいことではあるが、他方、知的財産権が容易に侵害される危険を内在していることから、弁理士には今後、工業所有権に限らずあらゆる無体財産物の保護を専門とするプロとして実務に携わることが期待されよう。 次に、司法書士についてであるが、行政情報化推進基本計画(1997年3月26 |
日政府決定)に基づく不動産登記、商業登記業務のオンライン化を控えているところである。これまで司法書士は登記申請手続の代行だけに限らず、取引の実体面にも深く関与し、当事者への助言、意思の確認、法的判断を行ってきたが、オンライン化が 進むと登記申請が一人歩きし、その場合実体と登記の不一致がもたらす社会経済的リスクは大きく、かえって取引の安全が害されることが懸念されている。前述の特許申請とは事情が異なり、不動産登記、商業登記の申請には常に社会的な真正が担保されていなければならない。そこで、登記事務 |
のオンライン化が実現したとしても、従来の司法書士の役割を継続させ、制度の安定と充実を担わせるべきであろう。 最後に弁護士であるが、電子社会到来時のセイフティネットの実務法律家として、電子取引がもたらすであろう様々な法的トラブルを解決し、または予防していくことが望まれる。従来は、人間の意思表示が自然的法則に従って伝達することが当然の前提とされてきたが、インターネットの発達は一瞬にして地球の裏側まで情報伝達 することもあれば、コンピ |
ュータのトラブルにより意思表示が誤った内容で、あるいは遅れて到達することもある。そうなると、莫大な紛争の発生が予想されることから、取引システムを安定化させるために日弁連は法務省、通産省と共同して取引ルールの策定を行うべきである。 電子政府の実現は、当然国民生活の利益に適うことであるが、それを成功させるためには各士業のサポートが 必要不可欠なのである。 |
電子商取引市場の未来 |
2000年1月19日、通産省の外郭団体である「電子商取引実証推進協議会」と大手コンサルティング会社である「アンダーセンコンサルティング」は、インターネットを通じた消費者向け電子商取引の国内市場規模に関する調査結果を発表した(2000年1月20日読売新聞)。 調査結果によると、電子商取引に関する1999年の市場規模は、3,360億円に達した。商品・サービス別では不動産が最 |
も大きく、880億円に上る。金融部門も170億円となった。また、同協議会によれば2003年には4兆4,000億円、2004年には6兆7,000億円の市場規模になるとの予測である。 この市場予測からすると、電子商取引に関わるすべての士業に膨大なビジネスチャンスが発生することも意味する。経済界だけでなく、法律実務界にとっても聞き過ごせないトピックである。 以 上
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