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2000.vol.1


続・カリフォルニア弁護士日記



アニバーサリー
米国カリフォルニア州弁護士
石鍋法律事務所
石鍋賢子
visalaw@ishinabe.com


 いよいよ西暦2000年だ。私にとっても今年は弁護士としての器量がためされる年かもしれない。1998年後半から独立準備にかかり、1999年は新しいオフィスで迎えた。まる一年経ったところで、ファースト・アニバーサリーというわけだ。
 一応中堅と呼ばれても恥ずかしくない経験を積み、サンディエゴ市に15年間在住で、知人も多く、弁護士としての知名度も一応確保した。今までのクライアントもいることだし、何とかなるだろう、と思っ
た。とはいえ、リース契約を結んでオフィスを借り、自分のビジネスとして仕事を進めていくというのは、未知の世界へ航海に出るような気がした。もし、万が一、全く仕事の依頼がこなかったらどうしようか、と真剣に考えたこともあった。ところが、実際には「開店準備」中から仕事の依頼があって、快調なスタートを切り、その後、事前の不安もどこへやら、忙しい毎日を送るうちに一年が過ぎてしまった。


 こちらでは年賀状の代わりに、 12月になると社名の入ったクリスマスカードを送るのが習慣だが、今回は私も事務所名の印刷されたクリスマスカードを用意した。私にとって、これは特別な意味をもつことだった。名前の部分はクリスマスらしく、ゴールドのインクで印刷してもらった。前回は事務所を移ったばかりで、クリスマスカードを印刷してもらうどころではなかった。社名入りのクリスマスカードなど、もらうほうは多分めずらしくもなく、 一見して送り主を確認した後は、壁に貼って飾りの一部とするにとどまるのだろうが、私にとってこれはひとつの節目、一歩前進の象徴のように感じられた。
 とはいえ、華やかなばかりの仕事ではない。独立して弁護士としての責任を負うのがどういうことか、身をもって感じたときもあった。例えば、移民法弁護士として企業をクライアントとしている以上、ビザ取得のタイミングは非常に重要である。発行までの所要時間がプロジェクト


計画の中に組み込まれている。一見必要条件が満たされているケースでも、移民局に請願を出す以上、書類審査を経て、請願が承認されなければならない。いくら有利なケースでも、審査の進み具合によっては遅延の生じる時もあり、審査官の不注意で不当に却下されることも有り得る。承認は自動的ではない。ところが、クライアントとしては、ビザなど取れて当然、しかも遅れることは許されない。折りしも、あるクライアントが米国で のオペレーション拡張に伴い、キーパーソンを送り込むことになった。その件に関して事前に聴いていたが、しばらく連絡がなかった。やがてそのクライアントから電話で連絡があり、事態は急変した。とりあえず3人、本社から海外派遣のために大至急ビザが必要、ということになった。今後の発展計画に関係している為、時間がない。その上、この計画の成功がかかっているような中心人物なのだ。プレッシャーがかかる。


 とはいえ、結局万事スムーズに事は進み、受益者の請願は首尾よく承認された。これで全くの当然、とりたてて言うべきことでもない。
 一方こちらは、やはり大事なケースであるほど、請願が万が一却下されたら、とか予定以上審査に時間をとられたらどうするか、など、つい考えずにはいられない。法律事務所に雇われの身でいたころは、書類を作成し、提出さえしてしまえば、これほど結果にこだわることはなかったように思われる。逆に書類を提出
したことによる満足感が、審査に対する心配を上回ったに違いない。とにかく、これまでの傾向を見れば、ケースが承認されるまでの所要時間はわかるし、『万が一』のことなど、考えなかった。
 自分のスケジュールとしては、仕事の上で時間が自由にとれるようになったというよりは、今までより忙しくなった。しかし、法律事務所で複数の弁護士と仕事をしていても、所詮自分が担当しているクライアントには自分に責任があるし、内部での微妙な競争があるから、結局


同僚を当てにできるというわけではない。逆に、独立と言う形で仕事をするようになってから、いろいろな意味で人間関係が楽しくなったような気がする。自分のやり方で仕事をすること、クライアントに対して柔軟な対応ができること、などもその原因だ。今まで法律事務所という団体の、一弁護士に過ぎなかった頃には見えなかった自分を、もう一度発見した気がする。


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