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vol.4

司法制度
地球規模での情報・ビジネスが当たり前となった現在、グローバリゼーション化の波があらゆる日本型システムを揺さぶり始めている。司法制度も決して例外ではない。今夏、司法制度改革に向けて各界の有識者を審議委員とした司法制度改革審議会が発足、裁判の在り方をはじめ、司法制度全般について本格的な議論が始まった。 小誌においても司法制度の抱える問題につき、論点を提示してきた。
今回は、司法制度改革につながる司法書士制度、外国法事務弁護士制度における論点を司法書士制度改革懇話会、司法制度改革懇話会がそれぞれ関係機関に提出した提言を全文掲載する。

司 法 書 士 制 度 改 革 に 係 る 提 言 書

司法書士制度改革懇話会 
●代表世話人 反町勝夫
●世話人 松永 六郎、岡 宏、山北 英仁、柏戸 茂

 規制緩和、金融システムの改革、産業構造の変化、企業活動の多様化などの社会的要因は結果として、国民に法的思考(Legal Mind)の重要性を否応なく認識させ、法律実務を量的に増大させ、質的に深化させた。著しい法律業務のニーズにより、わが国の法律実務界は制度的に大きな変容を迫られている。法社会学的に訴訟敬遠の国民性が浸透していることは、共通認識となっている。しかし他方で、訴訟と関わらない法律案件(企業法務その他一般の私法関係)が際限なく発生し膨大な需要を生み出しており、 法律家のフィールドワークもそれに的確に対応、処理する責務が生じている(司法書士法第1条の2、弁護士法第1条等参照)。
 司法書士は、不動産登記、商業登記、供託手続、訴状作成等、市民の権利保護を全うする地域密着型の法律家として、現在約17,000人が活躍している。しかし、弁護士法を始めとする他の士業法により、その活動範囲は制約を受け(司法書士法第2条2項)、十分実効性のある実務法律サービスを提供出来ない。


 そもそも、1872年の司法職務定制において、司法書士と弁護士は代書人、代言人として全く対等の業務権限を持つ法律家として位置付けられていた。ところが現在では法律業務の弁護士独占が原則であり(弁護士法第3条、72条本文)、登記実務など弁護士が従来からあまり熱心でなかった業務範囲について、例外的に司法書士に権限を認めるという誤謬が罷り通っている。その結果、法的サービスの受益者たる国民、企業に莫大な損失が発生していることは言うまでもない。
 一方、政府では、自由で公正な社会経済システムを構築し、それを法的に担保する制度作りを始めている。
 まず、「規制緩和推進3か年計画」の策定である(平成11年3月30日閣議決定)。総務庁規制改革委員会において司法書士、弁護士等いわゆる業務独占資格の権限見直しを平成10年度から12年度までの3か年にわたり検討、必要な法改正を実施する予定となっている。


 また、平成11年7月27日には、内閣官房「司法制度改革審議会」の第1回会合が開催された。審議会では平成13年夏までの2年間にわたって、法曹人口の増加、法律扶助制度の拡充、陪審・参審制の導入、ロースクールの設置などが検討される。こうした政府の取組みが真に効果を帯びるためには、既述の通り、裁判外の一般市民生活、 企業活動レベルで発生している法的需要の内容と性質に着目し、時宜適切な改革を行う以外にはない。
 そこで、我々司法書士制度改革懇話会では、国民からのニーズに添い、司法書士制度の一層の発展を推し進めるため、ここに「司法書士制度改革に係る提言書」を取りまとめた。


『提言1』 司法書士制度の目的改正(第1条関係)
 司法書士制度の目的として、第1条は「・・・その業務の適正を図ることにより、登記、供託、及び訴訟等に関する手続の円滑な実施に資し、もつて国民の権利の保全に寄与すること」と定めている。
 まず、「業務の適正」という文言が問題である。弁護士法との関係で、司法書士の業務が本来的に不適正な要素を含んでいるかのような印象を与えかねないからである。『提言2』以下で述べるように、司法書士制度は今後さらに発展させていくべきものとして位置付け、 業務範囲の見直し、拡大を徹底して行うべきである。
 そこで、「その業務の適正を図ることにより」(第1条前段)は「その業務の充実を図ることにより」
と改正すべきである。
   次に、「登記、供託及び訴訟等に関する手続の円滑な実施に資し」という点であるが、業務範囲を規定する第2条との関係で、司法書士制度を制限的、限定的に捉えているのではないかとの疑問が生じる。 
『提言3』以下で業務権限の見直しについて述べるが、とりわけ『提言4』の公証業務、『提言5』の成年後見業務は今後、司法書士にとって大きなウエイトを占めてくる分野である。そこで、これらの業務は列挙事由として法文に盛り込むべきである。さらには、司法書士が必要な法律事務を取扱えるようにすべきとの観点から、その旨明確に規定すべきである。


 従って、「登記、供託及び訴訟等に関する手続の円滑な実施に資し」(第1条前段)は、「登記、供託、公証、成年後見及び訴訟等に関する手続の円滑な実施に資し、併せて司法書士がこれらの業務に密接に関連する法律事務を取扱うことにより」と改正すべきである。
 最後に、「国民の権利の保全に寄与すること」という目的の最終部分については、司法書士の活動が幅広く国民の権利擁護に係わることを積極的に表現するため、
「国民の諸権利の確保、充実に寄与すること」と改正すべきである。
<第1条改正案>
 この法律は、司法書士の制度を定め、その業務の充実を図ることにより、登記、供託、公証、成年後見及び訴訟等に関する手続の円滑な実施に資し、併せて司法書士がこれらの業務に密接に関連する法律事務を取扱うことにより、もって国民の諸権利の確保・充実に寄与することを目的とする。


『提言2』 特認制度の見直し(第3条2号関係)
 司法書士となる資格を得るためには、司法書士試験に合格するか、もしくは裁判所事務官、裁判所書記官、法務事務官、検察事務官を10年以上勤続し、法務大臣から承認を得ることが必要である(第3条)。同条2号に定める場合は、特認制度と呼ばれている。
 特認制度については従来から、[1]法務大臣による資格認定の基準が具体的でなく、認定手続が不透明である、[2]資格認定者数は司法書士試験合格者数の1割未満であるのが常識的にもかかわらず、それに比して多すぎる、[3]資格認定者は法務事務官、検察事務官の出身は多いが、裁判所事務官、裁判所書記官の出身は少ない
ことから、法務省に対し、司法書士制度改革に関する実務家からの声が届きにくい、という問題点が指摘されている。
 そもそも司法書士制度が存在する意義は、登記業務を始めとする様々な法律的案件を高度の専門能力、知識によって分析し、事案を的確に解決することによって国民の権利保全に資することにある。それならば、司法書士たる資格を与えられ、実務を遂行していくためには一定の実務能力水準にあり、かつそれが国民一般に納得のいく基準で資格付与されていることが必要である。現行の特認制度はこの理念に真っ向から反するものである。


 法務局職員等への特認制度は、実際彼らの職歴に対する論功としての意味を持つ。また、彼らに対してほぼ無条件に司法書士の資格を付与する合理的理由は見出せない。そうすると、社会的身分の差異による差別を禁じた憲法第14条1項後段に違反すると指摘せざるを得ない。
 もし、裁判所事務官等に司法書士としての資格を付与するのであれば、一定の実務経験年数(現行通り10年で妥当と考える)
と実務試験を課すべきであり、合格者も年間30人程度に抑えるべきである。そして、その基準と実施方法について国民に明示するのは当然である。
 以上より、法第3条2号後段「法務大臣が司法書士の業務を行うのに必要な知識及び能力を有すると認めたもの」は「法務大臣が実施する実務試験に合格したもの」と改正し、合格者を年間30人程度に限定すべきである。


『提言3』 <業務権限の見直し[1]>有償法律相談権の承認
 司法書士の業務については、法第2条1項各号により規定されている。しかし、同条2項により「他の法律において制限されているものについては、これを行うことができない」と留保を加えた。弁護士法第72条本文は、非弁護士が「その他の法律事務」を取扱うことを禁止し、結果として当該文言の拡張解釈を許したために、司法書士の法律相談権は認められていない。
 特に、法第2条1項2号は、司法書士が裁判事務を行うことを認めているものの、その前提としての法律相談権を含んだ趣旨かどうか法文上明らかではない。
 そもそも法律家が法律判断を行う意義は何か。
平井宜雄教授は以下のように述べている。
「法律の素人が法律問題についての助言を得ようと法律家の許を訪れるとき、その者は、助言を得たい事項についてのさまざまな事実・印象・意見を十分に区別しないまま法律家に伝えるだろう。法律家は、自らの有する実定法の専門知識に照らして、素人の混沌とした話のうちから、法律的に意味のある事実とそうでない事実とを選り分け、意味のある事実のみをさらに尋ねた上で、その法律問題についての権利義務関係を判断し、とるべき行動について素人に助言を与えるであろう。・・・(略)法律上の概念は、


それ自体検証ないし反証の対象ではなく、混沌たる事実を法律家同士の共有する用語の体系に翻訳し、裁判所をはじめとする司法制度を動かすための道具である」(平井宜雄『法政策学 第2版』14頁)。
 それ故、法律相談から訴訟活動に至るまでは有機的な連関があり、その手続きを一貫して行うのが法律家としての役割に他ならない。
 この点、司法書士の不動産登記業務に照らすと、要件事実、効果の確定を通じて物権変動を適確に把握し、その後の手続関係とを総合的に判断することが要求される。弁護士法第72条との関係で実体関係の把握が出来ないというのは明らかに妥当でない。
 そこで、司法書士の業務として、「四 前三号の法律相談業務に応ずること」を追加すべきである(法第2条1項4号 試案)。


『提言4』 <業務権限の見直し[2]>公証人業務権限の当然付与
 公証人とは、[1]公正証書の作成、[2]私署証書(私文書)の認証、[3]会社定款の認証を業務とする者である(公証人法第1条)。1872年に定められた司法職務定制における証書人制度に端を発し、既述の如く現在の司法書士、弁護士と対等な法律家として位置付けられていた。
 公証人業務との関係で問題となるのが、登記原因証書(不動産登記法第35条1項2号)の認証権限である。登記原因証書とは、売買、贈与、抵当権の設定、登記誤記などの登記原因を証する書面である。
わが国では、公証人業務として位置付けられているが、他国の司法書士制度では登記の実体的物権変動を調査、把握する職責が法律上明らかであり、続けて登記原因証書を作成、公証する権限まで付与されている。
 そもそも、不動産登記法は不動産取引の安全を徹底するべく、形式主義に則り、実体面と登記の符合を要求しているのであり、登記業務を担う司法書士が実体的物権変動を的確に把握した上で登記申請を行うことが、取引関係者の利益に最も適うことは明らかである。


 また、私署証書の認証は勿論、市民の権利保全に不可欠な業務である。さらに、会社定款の認証は設立登記に先行する業務として、商法と関連通達に従って定款を作成した後に、司法書士の手により継続して行われるべきであることは言うまでもない。
 そこで、法第2条1項5号として「法律行為その他私権に関する事実について公正証書を作成し、私署証書に認証を与え、並びに商法第167条及び同条が準用する規定により定款に認証を与えること」を加え、公証業務を当然付与すべきである。


『提言5』 <業務範囲の見直し[3]>簡易裁判所事件における訴訟代理権の付与
 『提言3』で既述のとおり、司法書士の裁判事務範囲には法律相談業務を有償で行うことを追加すべきなのである(試案第2条1項4号)。次に問題となるのが(民事)訴訟代理権の付与である。
 現在、司法書士が担う裁判事務の中で大きなウエイトを占めているのが、本人訴訟(民事訴訟法第54条1項参照)の支援である。司法書士が弁護士にとって代わり、訴状の作成、証拠保全・収集、口頭弁論における陳述内容・方法のアドバイスを、実際の裁判を綿密にシミュレーションしながら行っているわけである。 簡易裁判所と地方裁判所における本人訴訟の割合は、
増加傾向にあり(簡易裁判所で83%、地方裁判所で15%)、それに伴って司法書士の活躍範囲が拡大している。
 特に、平成10年1月に新たに設けられた「簡裁少額訴訟手続」では、昨年1年間で8,300件の申立てがあるなど、今後更なる制度利用が見込まれている。もともと、簡易裁判所では弁護士による代理がほとんどなされていないのが現実である。民事訴訟が国民にとってより身近な存在となるためには、訴訟手続上の本人負担を可及的に防止し、法律専門家である司法書士の手で敗訴のリスクを抑えこむことが必要である。


そのためには、簡裁事件において司法書士が訴訟代理権を行使し、本人訴訟を提起するメリットを更に高めていくことが必要である。  従って、司法書士に簡裁代理権を認めるべきである。法第2条1項6号として「簡易裁判所における訴訟について代理すること」を追加し、民事訴訟法、弁護士法等関連条文を改正すべきである。 


『提言6』 <業務範囲の見直し[4]>民事保全手続、執行手続への積極的関与
 民事訴訟の本案の権利実現に係る民事保全手続は、当事者が本案判決を得、執行手続に至るまでの間、裁判所が行う迅速な権利保全手続として極めて重要な意義を持つ。しかしながら、保全命令の申立て(民事保全法第2条1項、13条1項)は、手続が非常に難解で複雑であるばかりか、その疎明(第13条2項)についても様々な規定があり(民事訴訟法第188条等)、特に法律知識に迂遠な市民にとって利用しづらい制度となっている。
 そこで、司法書士が法律専門家として、裁判官との面会を含め、
幅広く当事者の手続を代理する権限を付与することが必要である。民事保全法等、関連法令の改正を行うべきである。
 また、私法上の権利内容を強制的に実現する裁判上の手続、即ち民事執行は、『提言5』の簡裁代理権と同様、弁護士が従来から積極的な関与を行ってこなかった実務の一つである。例えば、抵当権の実行、競売手続一つとってみても、権利者からすれば権利内容を具現化する最後の重要な手続であり、法律家の関与(相談、助言など)が要求される。


 この点、執行手続においては、抵当権登記の申請手続を経て、民事執行の申立書作成、代金決済立会、所有権設定登記の申請手続など司法書士が多く関与する。  特に、不動産競売手続を円滑化することは、権利者の権利内容実現と不動産買受希望者の双方の利益に適い、 近時停滞している不動産市場を活性化させるなど、社会経済的な効果が高い。
 そこで、司法書士を一連の民事執行手続における専門家として位置付け、民事執行法に明文化すべきである。


『提言7』 <業務範囲の見直し[5]>渉外業務権限の充実
 外国人に係わる法律事務を幅広く取り扱う渉外司法書士の活躍は、近時目覚しいものがある。
 外国人入管手続の取扱いから始まり、外国人による会社設立手続、運営のサポート、ひいては外資系企業の不動産業務の取扱い、議事録作成等、業務範囲は非常に多岐にわたっている。また、外国法事務弁護士の業務活動がかなりの制約を受け、今後もその業務の発展が見込めないことに鑑みると、渉外法務の中心的役割を果たすのは、まさに司法書士である。
 例えば、出入国管理及び難民認定法(入管法)違反の外国人が収容(同法第39条〜42条)された場合、接見し、法的助言を与える法律家が制度化されていないことから、渉外司法書士が取扱う事件を除き、当該外国人は放置されてしまっている。これは明らかに、国際人権法の理念に反する。
 わが国の国際関係が、とりわけ私法分野で増大し、かつ複雑化している現状からすれば、渉外司法書士の活躍をさらに社会的に認知させ、膨大な法律案件を処理させていく必要がある。


 従って、法務省は通産省、日本貿易振興会(ジェトロ)等関係機関と連携し、全国レベルで渉外司法書士に関する相談窓口を設置し、法的サービス供給の態勢作りを至急行うべきである。特に、国際商事仲裁手続(当該手続に伴う和解手続を含む)における渉外司法書士の活動を確立していくための施策を講じるべきである。
 さらに、上記の入管手続については行政書士の業務権限と抵触しており、司法書士法、行政書士法の改正を通じて適正な権限調整を行うべきである。


『提言8』 成年後見制度への対応
 平成12年4月より成年後見制度の導入が始まろうとしている。従来の、法定代理を基調とした硬直した行為無能力者制度から一歩前進し、本人の意思表示をも重視した任意後見制度を基調としようとしている。禁治産者、準禁治産者という名称を改め、成年被後見者、被保佐人とし、さらに補助者制度を設けるなど、高齢化時代に即した制度となっている。
 任意後見契約は登記によって公示されるため、司法書士の登記業務がさらに拡大することは『提言1』で述べた通りである。高齢化が進む一方で後見業務をめぐる法的需要はますます拡大すると考えて間違いない。それ故、司法書士、司法書士会として果たして国民の福祉向上のために何ができるのか、そのスタンスを明らかにする必要がある。


 福祉、介護事業は、ホームヘルパーと介護福祉士がそれぞれ在宅、施設内で行うこととなるが、それは法的に見れば事実行為であり、ケアプランの作成、事業実施にまつわる様々な法律行為まで扱うものではない。財産管理・身上監護にまつわる法的問題を包括して司法書士が扱い、周辺部分を社会福祉士が担当するモデルが最も効果的である。
 従って、平成12年4月の制度施行を前に、法務省、地方自治体、司法書士会は成年後見制度下の司法書士の役割、業務を市民に啓発し、スムーズな制度運営が出来るよう広報を徹底すべきである。また、司法書士会は各会員に対し成年後見セミナーを継続して実施するなど、実務研修を充実すべきである。


『提言9』 法律扶助制度の充実と司法書士の役割
 裁判所等における法的サービスへのアクセスをより容易にする制度として、法律扶助制度がある。法律扶助の拡大は、今般の司法制度改革審議会の重要テーマとなっており、それを受けて平成12年度法務省概算要求額は22億2,500万円に上り、前年度実績比で25%増となっている。法律扶助制度拡大は、国民の裁判を受ける権利を実効化するものであり、歓迎すべきことである。
 しかし、法律扶助制度については、その骨格となる法律が存在しない。まず、扶助の内容を明らかにし、現状より拡大した上で、、法務省、司法書士会、弁護士会の役割を法律扶助に関する法律で定義すべきである。
 さらに、法律扶助を実効化あらしめるためには、裁判援助は訴訟の弁護士費用に限るのではなく、


その前段階である訴訟指導について、または本人訴訟のサポートについても十分な援助がなされていなければならないと考える。繰り返し述べているように、司法書士がそうした業務を弁護士以上にこなしているのであり、サービスを享受する国民の利便性からすれば、指導援助の主体を弁護士だけに限るのは不当であり、司法書士を加えるべきである。
よって、訴訟前の法律相談等、一切の指導援助についての指導援助サービサーとして、司法書士を位置付け、法律扶助に関する法律で明定すべきである。


 『提言10』 司法書士事務所の法人化(第7条関係) 
 司法書士事務所は法第7条、法務省令に規定するところにより、個人事務所の形態でしかも複数の事務所の設置は認められていない。事務所の法人化は他の士業についても検討課題となっているところである。
 司法書士事務所の法人化は次のようなメリットをもたらすと考える。
 まず、法人化することにより、事務所経営事務と通常の司法書士事務とに業務が分かれることになるが、
勤務する司法書士は経営の問題に関知する必要がなくなるので、通常業務に専念でき、法的サービスの良好化につながる。
 また、法人が解散するまでは当然に法人格は存続することから、担当司法書士が業務不可能になったり、入れ替ったりした場合であっても、一貫して継続的な業務が可能となる。また、法人事務所の下で働く事務員の福利厚生にも影響しない。


 さらに、ベテラン司法書士と若手司法書士の共栄という観点からすると、ベテラン司法書士が自ら経営者となり、若手司法書士を雇用することで、ノウハウの伝達が可能となるし、若手の雇用確保につながる。
 従って、法務省令を改正し、司法書士事務所の法人化を承認すべきである。 


『提言11』 総合的法律・経済事務所の開設
 総合的法律・会計事務所とは、法務、会計、税務、経営コンサルティング等に関する士業が同一のフロアでワンストップサービスを提供する事務所である。現在これを正面から禁止した法律は無いが、各士業間の権限調整、あるいは利益相反取引の点で問題が生じる。目下、規制緩和推進3か年計画においてテーマに挙げられ、今年度中に必要措置を採る予定となっている。
 総合的法律・経済事務所の開設につき
日本司法書士会連合会は、[1]参加する資格者が対等な地位で構成員とならねばならないこと、[2]各専門資格者の業務の独立性が保障されていること、の2点を指摘している。これらは至極妥当な指摘である。
 各士業が一同に会して業務処理を行うことは各々の専門性をブラッシュアップすることにつながり、これには士業者相互間の連携が重要である。


特定の士業に従属することは、その相乗効果を打ち消してしまう。[1][2]は制度導入に当たって十分配慮されるべきである。
 日司連は、総合的法律・経済事務所の開設にさらなる検討を進めると同時に、利用者たる市民に幅広くそのメリットを宣伝、普及させる態勢作りを行うべきである。


『提言12』 司法書士試験科目の見直し(第5条2項1号関係)
 『提言1』から『提言11』に至るまで、司法書士制度改革の目玉となるべき点を論述した。そうすると、司法書士そのものの資質をどう向上させるか、ひいては試験制度をどのように改革すべきかがここで問題となってくる。
 現在の司法書士試験では(第5条)、判例・実務を中心とした事案の結論を問う知識重視の択一試験が中心となっている。
合格率も3%を切ることから、超難関の資格試験と化し、司法書士をめざす者は法律の解釈の学習に重きを置くよりも、判例(結論)の暗記に走らざるを得ない由々しき現実がある。
 今後は、成年後見業務、公証人業務、法律相談業務等、司法書士の業務は拡大する一方であり、法律家としての資質はさらに高いものが要求される。


これらの業務の根底にある社会倫理、人権思想、法理論を学ぶことによって、将来の司法書士の業務に深みが生じるといえる。
 そこで、かつてから提案されていることであるが、司法書士試験に憲法を加えるべきである。司法書士自身の仕事に対する自覚を高めるなど意識改革につながる。  また、憲法以下、各試験科目についてであるが、
法知識よりも法解釈を重視した出題に傾向を変え、法的思考力の養成を図るべきである。合格後の公的な研修制度がないことから、実務に携わる前に一定程度の法解釈能力を育んでおく必要があるからである。
 そのため、司法試験の論文式試験のように、事例問題に対する法律解釈、適用を文章で解答作成させ、問題解決能力を評価する方法を採用すべきである。


『提言13』 司法書士制度の一層の普及に向けて
 平成10年4月のデータであるが、司法書士の会員数は16,980人、弁護士の会員数は16,850人である。
 司法試験の合格者は今年度より1,000人にのぼることから、弁護士数が司法書士を上回るのは時間の問題である。しかも、司法書士試験には特任制度が罷り通っており、試験制度改革が十分進んでいない現状にある。
 司法書士制度を改革し、国民に幅広く普及、定着させていくためには、
まずはその担い手を司法試験合格者以上に増やす必要があることは言うまでもない。
 そこで、司法書士試験合格者を当分は1,000人程度、最終的には1,500人程度まで増加させるべきである。
 司法書士業務の拡大は、『提言1』以下で述べたとおりである。後は、その業務遂行に関して社会的な認知を得る必要があることから、日司連は法務省と協力し、積極的な広報活動を行うべきである。

−平成11年9月3日作成平成11年9月8日改訂−



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