犯罪のボーダーレス化

 これまで他国に比べて治安がよい日本であるが、近年は、国際化の進展に伴う来日外国人※1等による犯罪の急増、サイバーテロなどの新たな犯罪、そして少年犯罪など、犯罪のボーダーレス化と言うべき現象が起きている。
 このような犯罪情勢に、日本は現行の刑事司法制度で対応していくことができるのであろうか?

日本の刑事司法が抱える問題


 精密司法※2である日本の刑事司法制度においては、被疑者が日本人、外国人にかかわらず、綿密な取り調べがなさている。したがって来日外国人等の犯罪の場合は、捜査や裁判などにおいて通 訳を付けているため、時間がかかる上に費用もかかっている。さらには、刑務所・留置所の収容率が100%を越えるなど、犯罪が増加傾向にある中で、このような点は現在の刑事司法制度が抱える大きな問題であると言える。また、ここ数年、犯罪者への対応のみならず、犯罪被害者への対応、つまり被害側の保護施策やその権利についての制度整備を求める声が高まっている。

刑事司法のこれから

 来日外国人による犯罪の増加については、水際対策が、犯罪を未然に防ぐ上で大変有効であるが、国内外問わず犯罪が増加し、凶悪化、複雑化している現在、犯罪を防止し、かつ刑事司法制度が抱える課題を克服していくためにはどのような施策が望ましいのか? 犯罪防止の国際的な取り組みとしては、国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)の活動(北田氏の記事を参照)等があるが、今後どのような展開が望まれているのか?
 司法制度改革審議会最終意見で示された、刑事司法改革プランの実行と併せ、国際犯罪への効果 的対応を探る上で、本特集が有益なものとなれば幸いである。

※1 来日外国人:日本にいる外国人から定着居住者(永住者等)、在日米軍関係者及び在留資格不明の者を除いた者のことをいう。
※2 精密司法:犯罪の行為態様・生じた結果・犯行動機等々を細部にわたって解明し認定しようとする、刑事司法制度とその運用。




※1 司法警察職員
警察官のほか、海上保安官、労働基準監督官、郵政監察官、麻薬取締官などを含む。
※2 独自捜査
検察官が、必要と認める時、自ら犯罪捜査を開始し、犯人を検挙摘発する捜査のこと(刑事訴訟法第191条第1項)。政治家等による汚職事件、法律や経済についての高度な知識を必要とする企業犯罪や多額の脱税事件等について行われる。
※3 捜査
捜査機関が、犯罪があると思料する時に、公訴の提起及びその遂行のため、犯人及び証拠を発見、収集、保全する手続のこと。
※4 中間処分
将来の終局処分を課題に残したまま、その前に行う暫定的な処分。
※5 終局処分
事件について必要な捜査を遂げた後、公訴を提起するかどうかを最終的に決める処分。
※6 家庭裁判所送致
被疑者が少年(20歳未満)である場合には、全件が家庭裁判所に送致され、家庭裁判所において処分が決められる。家庭裁判所において刑事処分が相当であると判断された時など、少年法に規定のある場合には、再び検察庁に事件が戻され、検察官が起訴・不起訴の処分を決める。
※7 公判請求
裁判所に対して審判を求めること。すなわち公訴の提起。
※8 略式命令請求
被疑者の同意を得て、公判を開かず、簡易裁判所が書面審理で刑を言い渡す簡易な刑事手続によってなされる裁判を請求する起訴。但し、一定額以下の罰金又は科料の刑を科す場合に限る。
※9 決裁判請求
交通事件即決裁判手続は、簡易裁判所が交通の事件について、公判手続又は略式手続によらずに罰金又は科料の刑を科す特別 な手続であるが、現在は行われていない。