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vol.2
ワールド トレンド レポート
韓国
 韓国の行政と大統領

金 鐘完 (前国会議員秘書官)

 韓国では、大統領制を採用しているが、その行政府は、議院内閣制の要素が加味されており、アメリカ型の大統領制と異なる。例えば、国会議員が政府閣僚を兼ねることができる点や行政府も法律案を 提出することができるといった点である。そして、韓国では大統領は国民の直接選挙で選ばれることで権力の正当性が保証されていると考えられる。なお、大統領の任期は5年、再選されることはない。


 大統領の職能としては権力分立原理に従えば、国会および裁判所とは相互に均衡と抑制関係を維持しているが、場合によっては国家元首としてほかの二権よりも上位に立ち権力を発揮することがある。つまり、大統領は、国家元首として国家の安全保障、憲法擁護、国民の公共の福祉増進などにつき法的責任を負うほか民主的政治発展や、 統一韓国を達成するために率先垂範の義務を負っている。
 行政府の構成はどのような政府形態を採択するかによって違ってくるが、前述の通り、韓国では議院内閣制を加味した大統領制という形態を採用している。そこで、今回は韓国の行政府と大統領の地位と権限に関して説明する。


(1)行政府の組織と権限

 行政府は法律や政策内容を具体的に執行するため国民生活に大きな影響力を持つ国家機関である。行政府の首班は大統領であるが、行政府を構成するメンバーに国務総理、国務委員、行政各部の大臣らがいる。まず、国務総理は憲法上、大統領が国会の同意を得た上で任命する。 大統領の意思で大統領の権限を代行することができる国政のナンバー2として、大統領を補佐すると同時に大統領の指揮命令を受け、行政府を統括する役割を担っている。法律と大統領令により委任された場合、所管事務に関して総理令を発することができる。


 次に、行政府の重要な政策を審議する最高審議機関として国務会議がある。国務会議は大統領、国務総理、国務委員により構成されている。国務委員は大統領により任命されるが、国務総理も任命の請求や解任の建議をすることができる。憲法上、必ず国務会議の議決を通さなければならない重要事項を列挙しており、国務会議が国政上重要な地位を占めていることを表している。また、国務会議は議院内閣制における内閣と違い、審議機関としての性格を有している。 なお、国務会議で必らず審議しなければならない重要事項は、以下のものである。[1]国政の基本計画と政府の一般政策、[2]宣戦、講和およびその他重要な対外政策、[3]憲法改定案、国民投票案、条約案および法律案と大統領案、[4]予算案、決算、国有財産処分の基本計画 、[5]大統領の緊急命令、緊急財政経済処分および命令、[6]軍事に関する重要事項、[7]国会の臨時会集会の要求、[8]赦免、減刑、復権、[9]行政各部の権限確定などである。


 行政各部の大臣は必ず国務委員の中から国務総理の推薦を受け、大統領が任命するよう規定されている。これは企画と執行段階における有機的な統一性を維持するための憲法上の配慮と言える。行政各部の大臣は法律の定めにより、所管事務を執行し、法律と大統領からの委任や直権で副令を発することができる。また前述のように国務委員の地位も有しているため国務会議に参加して一般的な国政に関して意見を提示することができる。
 国政を監査する最高監査機関として監査院がある。
憲法上、必須の合議制機関である。監査院の持つ重要な権限として、歳入、歳出の決算、国および法律が定めた団体に対する会計検査権、行政機関および公務員に対する職務監察権がある。特に、歳入、歳出の決算は毎年監査を行い、その結果を大統領が次年度国会に報告する義務がある。行政府に対する監督と関連して特異な点としては、監査院が形式的には大統領に属していることである。しかし、その職務に関してはだれの指示や干渉も受けない独立的な地位を持つ機関としての性格を有している。   


(2)大統領の地位と権限

大統領の地位と権限
 大統領は行政府の首班であり、国家の元首でもある二重的地位を持っている。
 まず、行政府の首班としての地位からは行政府を指揮監督する一般的な権限を有し ている。他にも、公務員任命権、憲法と法律の定めるところにより国軍統帥権、具体 的な範囲を決め法律から委任された事項と法律を
執行するために必要な事項に対して 大統領発令権を持っている。これは、一般的に大統領政府形態の国では政治的実権を 持つ大統領に与えられる固有の権限であると考えられる。
 次に、大統領は対外的には国家を代表し、対内的には国民の統一性と全体性を代表 する国家元首としての地位とそれにともなう権限を有している。


 国家元首として、対外的に国家を代表する権限が与えられている。条約の締結・批 准の権限、外交使節を信任・接受・派遣する権限、宣戦布告・講和権のほか、外国を 承認する権限などを行使することができる。さらに国家の緊急事態の際にこれを克服 するために以下のような非常権限が与えられている。緊急命令権と緊急財政・経済処 分および命令権、戒厳宣布権、違憲政党解散権などである。また、大統領には立法、 行政、司法を仲裁し、国政を調整することができる権限を持っている。例えば国会の 臨時国会召集要求権、 国会出席・意見表示権、法律案拒否権や恩赦権などである。憲 法改正提案権、その他の国家の安全に関する重要政策を国民投票に付する権限、栄典 の授与権など儀礼的権限なども同じである。最後に大統領には憲法機関を構成できる 権限が与えられている。国会の同意を得て最高裁判所所長、国務総理、監査院長、憲 法裁判所所長の任命権、最高裁判所所長の推薦で国会の同意を得て最高裁裁判官の任 命、憲法裁判所裁判官3名と中央選挙管理委員会の委員3名を任命する権限などがあ る。


大統領の義務
 大統領は国家元首として、個別的な行政業務を越えて国家的次元の政治的判断を基 礎にして憲法的権限を遂行する。韓国は大統領に国家の独立と領土の保全、国家の継 続性と憲法の守護、そして祖国の平和的な統一のため誠実に努力する義務を課してい る。
 韓国憲法第69条の規定で「私は憲法を遵守し、国家を保衛、祖国の平和的な統一と 国民の自由と福祉の増進及び民族文化の創造に努力して大統領としての職務を誠実に 遂行することを国民の前に厳粛に宣誓します」
という宣誓を大統領就任時に行うこと を規定している。
 一方、大統領の権限行使に慎重を期すために大統領のすべての国法上の行為を文書 にして必ずその文書に国務総理と関係国務委員のサインが含まれるようにしてある。 その他にも大統領には一定した事項に関して諮問機関の諮問を得ることができる。諮 問機関としては国家安全保障会議、民主平和統一諮問会議、国家科学技術諮問会議な どである。 


(3)行政の牽制と統制

 現代の福祉国家では行政権力の肥大化はある程度不可避な現象として認められる。 しかし、行政権の肥大化は民主的統制の必要性を同時に要請する。行政権力に対する 統制は行政組織の内部で自ら起こるときもある。これは大きな組織自体を維持するた めにも当たり前のことだが、特に行政の効率のためにも 必ず必要なことである。
 しかし、国民主権と代議制の原理から見ると、根本的に行政に対する統制は国民の 代表機関によってしなければならない。行政の最終責任を負っている大統領の役割と これを批判、牽制する国会の役割が繰り返し狭長されている理由もここにあるからで ある。


したがって、国民の立場からみると何より大事なことは有能で責任感のある国 会議員を選出し、彼らが国民を代表して健全で批判的な行政統制を行うようにしなけ ればならない。一方、国民が直接行政権力に対し、民主的な統制に出ることができる 。参政権の行使は単純に選挙過程に参加することと、政党活動に参加する以上の広い 意味を持つ。 これ以外にも強力な統制手段は憲法が付与している裁判請求権と憲法訴 願を行使することである。
 参考までに、韓国の行政機関は以下のものがある。建設交通部、科学技術部、教育 部、国防部、労働部、農林部、文化観光部、法務部、保健福祉部、産業資源部、外交 通商部、財政経済部、情報通信部、統一部、海洋水産部、行政自治部、環境部などで ある。

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