↑What's New ←目次
vol.2
ワールド トレンド レポート
中国
 中国の新契約法の主な特徴

李 宇 (横河電機株式会社法務事務室中国弁護士)

 「中華人民共和国契約法」(以下「新契約法」と称する)は1999年3月15日に中華人民共和国第9期全国人民代表大会第2回会議で採択され、1999年10月1日より施行されることになっている。その施行と同時に、現行の「経済契約法」(1981年制定、1993年改正)、 「渉外経済契約法」(1985年制定)、「技術契約法」(1987年制定)の三法が廃止となる(新契約法第428条)。
 新契約法は総則、細則に分けられ、全24章、428条で構成され、中国ではきわめて大がかりな法律となる。


一 新契約法の制定の必要性

 現行の契約法制には以下のような問題点がある。まず、第一に、上述した現行の三つの契約法はこれまで当事者の適法な権利・利益の保護、経済秩序の維持、経済、技術および対外貿易関係の発展を促進する上で、 重要な役割を果たしてきたが、改革開放政策の浸透、企業のグローバル化、経済貿易の発展に伴い、既存の三大契約法では社会主義市場経済の需要に適応することができなくなってきた点である。


 また、特に大きな問題は、現行法が契約の成立に必要な申し込みと承諾に関する基本規定が欠けているといったことなど、具体的欠陥のある規定や、「民法総則」と矛盾する部分が存在することである。加えて、これらの契約法はそれぞれ異なる領域における法律関係を規制対象としているため、相互に矛盾が生じ、 適用範囲についても重なり合う一方でどの法にも該当しないといった空白部分も存在していることなども問題である。例えば、もしある外国人が中国で一般の個人から家屋を賃借し、紛争が起こった場合にどの法律を適用すればよいのか、既存の契約法からは明確に導き出すことはできない。


 第二に、近年、取引市場においては、契約を悪用し詐欺を行うなど、国家、団体、個人に損害を与えたりするケースが少なくないといった点や、社会主義市場経済の発展に伴って取引代行、仲介など既存の契約法に存在しない新しい契約形式が出現したことなど、 法律による規制の必要性が高まったことがあげられる。
 この結果、統一的な、より完備された現代的な契約法の制定が、社会主義市場経済下の法体系を完成させる上での重要課題として浮上してきたのである。


二、新契約法の主な特徴  

 既存の三大契約法とそれを中心とした契約関連法規、法解釈と比べ、新契約法には主に次のような特徴がある。


1 適用範囲の拡大
現行の三大契約法の中で、自然人に適用されるものは「技術契約法」のみであるのに対し、新契約法では自然人、法人、その他の組織などすべてが契約当事者となるほか、新契約法は経済契約、婚姻、養子縁組、親権等を除いたすべての民事的権利義務関係のある契約に適用される。(第2条)
 さらに「この法律の細則またはその他の法律で明文規定のない契約については、この法律の総則を適用し、またはこの法律の細則またはその他の法律に最も類似した規定を参照することができる」(第124条)とした。


2 契約当事者の契約責任の拡大
 新契約法では、当事者が契約の約定義務を負うほか、履行中または契約終了後も信義誠実の原則に基づき、契約の性質によっては取引慣行に従って通知、協力および秘密保持といった 法定義務をも負わなければならないとされている(第60条、第92条)。また、契約交渉段階においても、秘密漏えい行為により発生した損害への賠償責任も認められている(第43条)。


3 無効契約の認定範囲の縮小
 現行の契約関連法や、法解釈では、契約を無効とする条件が広く規定されている。実際、裁判官が本来無効な契約として処理すべきではない案件を無効契約として処理したりするケースがこれまで少なくなかった。これは取引の安全を害するため、外国人から批判されてきた。そこで、新契約法では、 従来規定されていた無効事由を減らし(第52条)、表見代理(第49条)、越権行為(第50条)などの規定を設け相手方を保護し、また欠陥のある契約(規定が欠如または不明確など)に対する協議補充および解釈基準を定めている(第61条、第62条)。これによって、無効契約の認定範囲はかなり縮小されることになる。


4 契約履行保全制度の確立
 現行の契約法が契約履行保全に関する規定を欠いているのに対し、新契約法は同時履行の抗弁権(第66条)、後履行抗弁権(第67条)、不安の抗弁権(第68条、第69条)、 債権者代位権(第73条)、詐害行為取消権(第74条)を認めている、これによって、中国では、契約履行保全制度が確立されることになる。


5 英米法の契約違反事前予告制度の採用
 新契約法は、中国で現在深刻な問題となっているいわゆる「三角債」(注)現象に対しても一定の役割を果たすことが期待されている。そこで、英米法にある契約違反事前予告制度を採用することになった。 この制度は「当事者が契約を履行しない旨を明確に表明し、または自己の行為によって表示したときは、相手方は履行期間の経過前に違約責任を負うように請求することができる」(第108条)というものである。


6 消費者保護の強化
 消費者の権益をより一層保護するため、新契約法では、標準約款に関する規定を設けている(第39条、第40条、第41条)。標準約款とは反復使用するためあらかじめ作成しておき、契約締結時に双方で協議しない条項を言うが、 標準約款の提供者側が自らの責任を免除し、相手側の責任を加重し、または相手側の重要な権利を排除したときは、当該約款を無効とするなど新契約法では消費者保護を厚くした。


7 電子データを用いた契約の成立を認める
 最近の電子商取引に関する世界的動向に応じるため、新契約法は電子データを用いた契約の成立を認めている(第11条、第16条、第26条、第33条、第34条)。


 以上のように、新契約法は、現行の三大契約法を見直し包括して、国際的な慣例を踏まえ、先進国の契約制度を参考にした上で、中国の市場経済化に対応したものである。 新契約法は中国の現行法においては、立法の技術面にせよ、条文の内容にせよ、水準の高い法律である。実践的な運用については、今後非常に注目されると思われる。 


(注)三角債
複数の企業が互いに商品代金の支払を滞らせ、相互に借金をつけ回す焦げ付き債務のことをいう。


著者近影
著者近影




←目次

↑What's New ←目次
vol.2
Copyright 1999 株式会社東京リーガルマインド
(c)1999 LEC TOKYO LEGALMIND CO.,LTD.