評論家 美浪法子
審議会「中間報告」は何を述べたか
法科大学院と隣接法律専門職種の問題を中心に

期待を裏切った『中間報告』

  11月20日、司法制度改革審議会の中間報告※1が公表された。基本的に昨年末の論点項目※2に従いながら、若干の新しい論点を加味しながらまとめられている。
 全文66ページにすぎない中間報告の内容が、実務法律界、大学関係者、そして司法制度の利用者たる多くの市民・企業の期待に添うものかと言えば、決して私はそうは思わない。司法制度改革の利害関係者だけでも相当な数がこの中間報告に目を通 しているに違いないが、内容を評価する者は僅かであろう。
 私が分析するに、中間報告の内容は改革実現に向けた具体的なプログラム(法律改正事項であれば、その内容、実施主体、改正時期)に言及がなされていないことが最大の問題である。今更、司法制度改革は重要であるとの見解を繰返し述べたとしても、誰も反対する者はいないので、論じる実益はなきに等しい※3。それにもかかわらず、「当審議会としては、改革が確実に推進されるよう、内閣等において、現段階から必要な準備を開始されることを希望する次第である」(『中間報告』p.65)と言われても、法務省など関係省庁はこの中間報告を踏まえて一体どのような制度改正に着手したらよいのか分からないのが実際ではないか。
 本稿では、司法制度改革の論点の中で非常に多くの利害対立を生み、ホットな議論が展開されている法曹養成制度改革(法科大学院構想・司法試験制度改革)と弁護士と隣接法律職種との関係について、中間報告の批判的検討を試みる。併せて、最終報告が本当に有益な内容となることを願い、審議会に対して幾つかの提案を試みたい。

法曹養成制度改革
―法科大学院構想―


 当初から審議会委員の中には、法曹の質と量を拡充する目的で、現在行われている司法試験に替わってロースクールが中心となる法曹養成制度を組み立てようという意見があった。今年5月から9月にかけて文部省で「法科大学院(仮称)構想に関する検討会議」※4が開かれ、検討会議の最終報告※5が今回の中間答申に反映した形となっている。
 中間報告では、法科大学院が「必要かつ有効」であると結論づけているが(p.13)、現行の法曹養成制度即ち司法試験制度のどこが問題なのかという点については、「合格者数が徐々に増加しているにもかかわらず依然として受験競争が厳しい状態にあり、受験者の受験技術優先の傾向が顕著となってきたこと、これ以上の合格者数増をその質を維持しつつ図ることには大きな困難が伴うこと等の問題点が認められ、その試験内容や試験方法の改善のみによってそれらの問題点を克服することには限界がある」ことと、受験予備校の存在によって「ダブルスクール化」「大学離れ」が進み、「法曹となるべき者の資質の確保に重大な影響を及ぼすに至っている」と述べるにとどまる(p.12)※6
 この文章論理・内容が正しいかどうかは、十分な検討を要する。まず、質を維持しながら合格者数を増やすことは困難というのは本当だろうか。1964(昭和39)年から1990(平成2)年までは司法試験合格者は毎年500人前後で推移しているので質は維持できているのだろうか。そして、合格者増が徐々に進んできた1991(平成3)年以降は質が低下してきたということになるのか。審議会は最終報告までにこのことを実証し、法科大学院がいかに法曹養成に適したシステムであるか国民に納得のいく説明をするべきである。
 また、中間報告における法科大学院構想は、狭義の法曹(法曹三者:裁判官・検察官・弁護士)の養成を前提としている。しかし、「受験戦争が厳しい」のは司法試験に限らず、司法書士、弁理士、税理士、行政書士、社会保険労務士などの隣接法律専門職種についても同じである。これらの士業についても、「法の支配」の担い手であることには変わりなく、「国民の社会生活上の医師」と称すべきほどのリーガルサービスを提供しているのであるから※7、それぞれに専門特化したプロフェッショナル・スクールの創設が同様に検討されてしかるべきである。
 法科大学院構想は、法曹人口の大幅増員が前提となっている※8。中間報告では「計画的にできるだけ早期に、年間3,000人程度の新規法曹の確保を目指す必要がある」とされた(p.22)。新司法試験の合格率を80%と考えると、3,750人の入学者を確保しなければならない。この点、「法科大学院の設置認可は、関係者の自発的創意を基本としつつ、設置基準を満たしたものを認可することとし、広く参入を認める仕組みとする」(p.18)ならば、年間3,750人の入学者数は余りにも少なすぎるのではないか。参入規制や参入障壁を作らないためにも、全国規模での入学定員を10,000人程度とし、毎年8,000人程度の新司法試験合格者を輩出することを最終目標として明記すべきである。
 ここ1年間、全国各地の大学・弁護士会で法科大学院構想に関するシンポジウムが開催された。今後は、それぞれの試案を中間報告、最終報告の内容と擦りあわせることが必要である。これから法科大学院論議が再活性化することに期待したい。
 最後に、審議会はこれからの法学部教育についてどのようなビジョンを持っているのかが釈然としない。「法的素養を備えた多数の人材を社会の多様な分野に送り出すという独自の意義と機能」(p.13)をこれからも重視するのか、それとも柳田幸男弁護士が主張するようにリベラルアーツ教育(法曹としての基礎教養)に徹するのか。
 法学部の上に法科大学院を積み上げる「日本型ロースクール」というシステムの妥当性を審議会の見解として明示すべきである。

弁護士と隣接法律専門職種との関係

 中間報告は、弁護士と隣接法律専門職種(ここでは、司法書士・弁理士・税理士・行政書士・社会保険労務士の5資格を指す)との関係について次のように述べている。「(弁護士制度の改革を併行させながら)・・・各隣接法律専門職種を個別 的にとらえて、それぞれの業務内容や業務の実情、業務の専門性、人口や地域的な配置状況、その固有の職務と法律事務との関連性に関する実情やその実績等を実証的に踏まえた上で、信頼性の高い能力担保制度を講じることを前提に※9、それによって担保される能力との関係で、訴訟手続への関与を含む一定の範囲・態様の法律事務の取扱いを認めることを前向きに検討すべきである」(p.32)。また、弁護士法第72条(弁護士による法律事務の独占)については、「同条の制度趣旨・機能を踏まえながら、前記の隣接法律専門職種の活用を検討する見地も含め、今後の在り方を検討すべきである」とされた(p.32)。
 まず、弁護士と隣接法律専門職種との業際問題については、もはや議論の段階ではなく実行の段階であることを強調したい。司法書士に対する簡裁代理権の付与など、30年以上も前から議論が続けられてきているからだ。
 この意味で、中間報告は少しも前進していない。「前向きに検討すべき」というだけでは隣接法律専門職種の積極的な活用は実現しないし、国民が不利益を被る状態がまたしばらく続くことになる。
 私は中間報告の中で、例えば司法書士に上記代理権を付与する旨の司法書士法の改正、弁理士に特許等侵害訴訟における訴訟代理権を付与する旨の弁理士法の改正などについて具体的に言及すべきだったと考える。特に弁理士については、通 産省工業所有権審議会「弁理士法の改正等に関する答申」(1999年12月22日)※10で知的財産取引に関する契約代理業務の追加などの権限が与えられたが、訴訟代理権については司法制度改革審議会の審議・結論に委ねることとされ、弁理士法改正法案※11に盛り込まれなかったという経緯がある。その分、審議会への期待が大きかった訳だが、中間報告では表現のニュアンスが若干異なっただけで改革を一歩進めたわけではないのである。
 今年7月7日の審議会第24回会合では、日本司法書士会連合会、弁理士会、日本税理士会連合会、日本行政書士会連合会、全国社会保険労務士会連合会のヒアリングが行われている。各会の代表者が自ら出席し改革実現に向けて積極的な意見表明を行い、審議会委員と活発な意見交換をしたわけであるが、中間報告ではヒアリングの成果 が全く見えてこない。非常に残念である。
 弁護士法第72条は、改正にとどめるのではなく全文を削除するべきである。多種多様な実務法律家が存在し、相互に協力・切磋琢磨しながらリーガルサービスの質を高めていくことが出来る制度が実現すれば、法が血となり肉となって、法の支配の理念が社会全体に浸透していく契機になるからだ※12。今こそ弁護士中心の法律実務から脱却することが不可欠であり、「隣接法律専門職種」という概念そのものに疑問が投げかけられなければならないと私は確信している。

『最終報告』への期待

 2001年6月には、審議会の最終報告が予定されている。審議会設置から中間報告までの実質審議期間と比べて、はるかに短い。最終報告では格段に深い内容を期待して、審議会には以下のような提案をしたい。
 まず、司法制度改革の3つの柱(人的基盤の拡充・制度的基盤の整備・国民的基盤の確立) についてはどれも法律事項である。法律改正を念頭に置いて改革の方向性を示さなければ意味がないということを自省していただきたい。司法制度改革には数多くの法律が関係するが※13、最終報告では是非とも該当法律の改正が必要な部分に触れて具体的な改革案を示すべきである。
 そして、隣接法律専門職種の問題については、審議会の中に小委員会を設置し集中的な審議を行って、具体的な結論を最終報告に間に合わせるべきである。リーガルサービスの担い手の問題は司法制度の根幹に関わる重要な問題であるから、最終報告の後に引き伸ばすべきではない。
 最終報告まであと6か月である。今まで以上に司法制度改革論議が活発化することを切に願うばかりである。


参考資料 各士業の資格者数

弁護士■■■17,859人 平成12年07月01日現在
司法書士■■17,049人 平成12年01月01日現在
弁理士■■■04,278人 平成11年12月31日現在
税理士■■■64,426人 平成12年03月31日現在
行政書士■■35,354人 平成12年10月01日現在
社会労務士25,167人 平成11年12月31日現在

わが国にはこれだけ多くの実務法律家が活躍している。
隣接法律職種の業務拡大を図ることが、国民にとってどれだけのメリットを生むか、想像に難くない。


注釈:1〜13

※1 中間報告の概要・全文は審議会のホームページでみることができる。 (http://www2.kantei.go.jp/jp/sihouseido/) もっとも、11月20日は森内閣に対する内閣不信任案が上程された日であり、政局が緊迫した。公表はされたといえ、中間報告がどのように内閣に提出されたのか、審議会に対するその後の森首相の指示はどうなのか、明らかでない点がある。

※2 1999年12月21日。詳しくは、審議会ホームページを参照のこと。

※3 中間報告pp.3-11がまさにそうである。論点整理のときにすでに論じられている内容の繰返しでしかない。

※4 司法制度改革審議会設置法第6条第1項に基づく、審議会から文部省に対する検討依頼である。全12回にわたって審議が行われ、議事概要など審議会のホームページで公表されている。

※5 2000年10月6日、審議会第33回会議において最終報告がなされた。

※6 この点については、有力な反対意見がある。文部省・法科大学院検討会議第5回会合で、出席委員から次のような発言があった。 「人間として非常識かどうかというのは、司法試験の問題とは切り離して考えるべきではないか。実際に非常識な者が増加しているとしても、司法試験の方法が適当でないから非常識なものが合格し、したがって今の司法試験がだめだということではないのではないか」。

※7 そうであるからこそ、総合的法律経済関係事務所の開設促進に大きな期待がかかっているのである。

※8 文部省・法科大学院検討会議第2回会合でこのことが確認されている。

※9 2000年5月18日の自民党司法制度調査会報告書『21世紀の司法の確かな一歩』p.7参照

※10 特許庁ホームページ参照(http://www.jpo-miti.go.jp/)

※11 弁理士法改正法案は2000年4月18日に衆議院で可決、成立した。一部規定を除いて、2001年1月6日から施行される。

※12 経済同友会が今年7月5日に発表した提言書『わが国司法の人的基盤改革のビジョンと具体策』では、弁護士に業務独占させる必然性に乏しい法律相談業務、法律書類作成などの業務について、自由化すべきことが提案されている。

※13 例えば陪審制・参審制の導入は、憲法・裁判所法・訴訟法に関わる。その他、民法、商法、刑法、弁護士法、司法書士法など、数多くの法律が関係する。