↑What's New ←目次
通巻195号

今月のことば

産業構造の転換〜第五次産業のすすめ〜

反町 勝夫
■ LEC東京リーガルマインド代表取締役社長 ■ 

はじめに
 今や、わが国は不況克服のため、産業構造の転換が喫緊の課題として主張されて久しい。
 世界が総資本主義化・グローバル化の大波に洗われ、全世界が市場経済とIT革命に翻弄されているのが現状である。労働省は雇用活性化結合プランをはじめ毎週新たな雇用対策を発表し、通産省はかつての重厚長大産業政策を転換して、新規成長15分野の育成や中小企業育成政策にみられるように、ニュービジネスやベンチャービジネスの育成に力点を置いている。
 そこで、産業とはそもそも何なのか、を少し分析してみよう。
 
産業構造の発展
 産業構造の分類では、1930年代にA.G.B.フィッシャーが第1次産業、第2次産業、第3次産業の分類をはじめて行い、経済進歩の発展過程について論じたが、さらにC.クラークはこの3部門の概念を実証的に研究を進め、広く普及するに至っている。この3分類説は、まず生産過程に注目してみると、自社内で商品を製造する手段・装置を自立的に保有しているか否かで分けられる。また、扱う商品についてみると、有体物か否かで分けら る。有体物とは、法律上は空間の一部を占める有形的存在と定義されるが、物理的には素粒子によって構成される物質である。したがって、電気・光などは有体物に含まれる。ガス・電気の製造会社は、第2次産業に含まれてよいであろう(しかし日本の統計では第3次産業に含めている)。
 現状では、情報産業を抜きにして産業論を論じえない。そこで情報を分析してみよう。
 まず情報とは何か。ここでは、有体物、すなわち素粒子以外のものをいう、と定義しよう。例えば東京電力株式会社から私どもが購入するのは素粒子たる電気である。しかし、NTTから購入しているのは電気ではない。電話であれば会話をするというサービス(これを情報という)であり、インターネットであれば、その回線を通じて入手するサービス(これも情報)である。近くの店でピザを購入する場合、ピザそのものは有体物であるが、 そのピザが何グラムで何円であるという知識は情報である。この情報は、NET回線で入手できる。  このようにみてくると、情報は、文化に支えられている。ある事柄についての知識すなわち文化の構造が情報をつくっているのである。人類が今日まで築いてきた文化、これを知識の体系と呼ぶと、この知識が情報の中身である。
 次に、この知識=情報は、その対象からみて、事実に関する情報と創造に関する情報に分けられる。前者すなわち事実情報とは、現に世の中に存在するあるいは存在した物(正確には素粒子で作られたモノ)に関する知識の全体である。例えば、国々の歴史の事柄、出来事、自然界の諸々などである。これに対し創造情報とは、私どもの頭脳が創り出すイマジネーションの世界をいう。映画、芸術品が人間に与える情報や法律、経済理論が私どもに与える価値の体系や考え方などは、現に世の中に存在する物ではない。あくまで私どもの頭の中に形成された、いわゆる概念の体系の集合体である。
 
21世紀の産業構造5分類説 −創造産業育成へ
 以上の分析に立って、今日の産業構造を分類した図表を参考に、具体的に説明しよう。
 まず第1次産業は自然の恵みを生産エネルギーとして、私どもの衣食住に貢献している。
 今日の養殖産業にしても、同じである。例えば魚の生長そのものは、人力によるものではないからである。
 第2次産業は、20世紀の産業の中核として今日の繁栄を支えてきた。大量生産・大規模装置産業などいわゆる重厚長大産業がこれである。今日の経済理論や経営理論、会計理論など、その殆どは、この第2次産業を対象として発展してきたものである。それゆえ今日の情報産業を説明するのに不適合になっている。官庁が行う統計調査も新しい情報産業の実態を捉えたものではない。政府の景気回復の対策も、従来型の産業構造を対象としたものであるから、景気回復の効果を発揮していない。大方の学者の経済・経営理論、政策論そして政府の政策も、第2次産業構造を前提として立案され実施されているからである。
 第3次産業は、自らの産業構造の中に、商品の製造過程を持たない点で共通している。
 運輸業では、商品を空間的移動を行うことによりサービスを提供する。流通業では商品の配分や消費者への販売によりサービスを提供する。今日では、情報通信システムにより大きなコミュニケーションネットワークを作り出している。音楽配信や情報通信など新しい型の第3次産業、サービス業が拡大している。いわゆる産業のソフト化である。
 第4次産業、第5次産業とは、未だ学問的に熟した概念ではない。私見にもとづくものである。第4次産業は、事実情報を自ら内製化する手段を有する。事実に関する情報を素材にこれを体系化、組織化し、新たな知識産業をつくり上げている。広告業・新聞・雑誌・マスコミ産業などがこれである。この事実情報は最もデータ化、ネット化になじむ。インターネット事業は、この事実情報を中心に巨大化しつつある。株価情報・金融商品情報など事実情報の典型といえる。
 第5次産業は、もちろん私の考えによる分類である。21世紀は高度知識情報社会である、といわれて久しい。この高度とは、大脳が生み出すサイエンスに基づく体系やイマジネーションの世界をいう。これらが頭脳の生産物であって、現実の社会の存在物の名辞物でない点において、創造情報なのである。映画産業や音楽など芸術の分野は当然だが、政治や企業活動のように未来に働きかけて、あるべき社会や企業を創造する営みも、創造情 報に含まれる。これらは現実社会に関わることではあるが、過去、現在ではなく未来のイメージであるから頭脳創造物なのである。第5次産業は、コンピュータの発達により、人間の作業がどんどんコンピュータに代替されていく過程において、最後まで人間に残された聖域である。いったん人間が作り出したイメージは、コンピュータプログラム化することができる。しかし、コンピュータは未知の物を創造することはできない。プログラム自体は人間が創らねばならないからである。人間存在が、考える葦 であるなら、そしてソクラテスのいう すべてを疑え、を信条とするならば、この第5次産業こそ、21世紀における中核的産業とならねばならないし、わが国の政策はこの第5次産業の育成にあるはずである。
 
←目次

↑What's New ←目次
通巻 195号
Copyright 2000 株式会社東京リーガルマインド
(c)2000 LEC TOKYO LEGALMIND CO.,LTD.