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『外形標準課税』
元衆院議員政策秘書 清水 元 |
東京都の石原慎太郎知事が、銀行業に対する外形標準課税を5年間の時限措置として導入する旨表明し、都議会本会議で「外形標準課税条例案」が可決されるまで(3月30日)、大いに物議を醸した。2月23日の第1回都議会定例会で石原知事は、「(外形標準課税は)(1)安定的な税収の確保が急務であると判断し、(2)銀行業という業種に限定しておりますが、税収の安定化や税負担の公平性確保を図るため、(3)地方税法の規定を活用して、都独自に実施するものであります」と述べている(丸数字、下線筆者)。 (1) については、なぜ外形標準課税という議論が提起されたか、(2)については、銀行業のみを対象とすることが、 税制の公平性原則に反しないか、(3)については、地方税法の解釈、および地方税法の特例を活用することの政治学的意義が問題となる。 外形標準課税とは、都道府県税である法人事業税の課税方式を指す。法人事業税は「・・・法人の行う事業・・・に対し、法人にあつては所得及び清算所得又は収入金額・・・を課税標準として事務所又は事業所所在の道府県において、その法人・・・に課する」(地方税法第72条第1項 ※同法第2条により東京都に準用)とされ、利益から損金を引いた所得に対しての課税原則を規定している。そのため、所得が観念しえない赤字決算の法人には課税できず、特に不景気時には都道府県財政を悪化させる要因となる。 そこで、税収を安定させるために、法人の損金を考慮せず、基本的な業務収益指標である「業務粗利益」(資本利益、役務取引等利益、その他業務利益の和 ※売上高に相当する)を基準とする外形標準課税が提案された。 それでは、なぜ銀行業のみが対象か。この点、石原知事は同じく定例会の中で「銀行業は、業務上の利益を十分得ているにもかかわらず、不良債権処理という過去の事業運営の負の遺産によって殆ど課税を受けず,行政サービスのコストを負担しておりません。バブル期には、2,100億円を超えていた大手銀行の事業税が、現在では100億円程度しか納められていないなど、税収動向は極めて不安定になっており、応益課税としての法人事業税の機能が失われております。」と述べている。 確かに、政府の金融システム安定化策は逆に銀行経営者を免責した側面があり、また、銀行員の給与は依然として高収入で、人件費削減などの自助努力が見られない。さらには、銀行には巨額の含み資産があることからすると、銀行業には特段の事業があるといえる。あらゆる法人業種に対して平等に外形標準課税を実施するのが税制の公平原則だとの意見もあるが、むしろ「公平」「公正」という概念をどのように捉え、比較衡量するかが政策担当者の責務であろう。場合によっては、両者はトレードオフの関係にあることから、政策決定プロセスをいかに分かりやすく説明するかが肝要となる。 今回の事例では、法人事業税の課税標準の特例を定める地方税法第72条の19が根拠とされた。都道府県は「事業の情況に応じ」て、「資本金額、売上金額」などに課税標準を変えることができる(同条)。 この点、大蔵省の薄井事務次官は、2月24日の定例記者会見で、東京都の問題について何らかの裁量制限を含めた地方税法改正の必要性に触れているが、妥当ではない。地方分権一括法の施行(4月1日)とあわせ、地方行政の要諦である課税自主権の維持・拡大は、ますます重要となってくるからである。 当初、外見標準課税は東京都の独自案の色合いが強かったが、政府・与党は全国一律で全業種を対象として、2001年度の税制改革に盛込む方向で検討に入った。石原知事の地方主権が勝利を収めた。 |
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