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通巻 192号

『企業コンサルティングと社会保険労務士』その2
川口義彦(中小企業福祉事業団 理事長)

  「技術革新」について


 これは言うまでもなく、現代は情報化社会の真っ只中であるという事実に気がつくべきです。平たく言うならば、パソコンぐらい使いこなそう、ということです。お恥ずかしい事ですが、社労士業界は、コンピューターに対する対応が、他の士業と比較すると遅れがちです。それは多分に人口構成の問題に起因する(早い話が年配者が多い)のでしょうか。
 例えば今の時代、電話やファックスなしに社会保険労務士業務が成り立つと思っている社会保険労務士は、いないはずです。「ファックス?電話?だめだよ。
やっぱりフェイスツーフェイス。どんなことでも社長に直接会いに行かないと心が通じないよ」などと言って電話もファックスも使わない人がいたとしたらその人はどうなるか。あきれられて社長に見捨てられるは必定です。これは誰が考えても明らかです。しかし、インターネットによる情報検索、E−mailによる情報伝達、パソコンによる、ワープロや表計算。パワーポイントなどのプレゼンテーションツールによるプレゼンテーション。これからの時代は、これらができないと、今までの「電話を使えない人」と同等になってしま


うのです。いわば情報難民です。社労士業はある意味で情報仲介処理業務の部分があります。情報難民になってしまっては、まっとうな仕事をする事が出来ない、というわけです。誤解しないで頂きたいのは、コンピューターで何でもできるということではない、ということです。コンピューターは、たかだか文房具に過ぎません。ただその文房具を使わないと取り残されてしまうほど世の中の変化は激しい(世の中から求められる仕事の質は高度化していく)ということです。

  「業務革新」について


 先ほども申し上げましたように、現代は、さらなる情報化時代へと進化しつづける時代です。この時代の特徴としては「変化のスピードが速い」「情報がどんどん使い捨てられる」という特色があります。
 たとえば、賃金制度などの3号業務にしても、数年前までは「この道一筋何十年の大先生」が大事にされましたが、最
近では「若いフットワークの軽い先生のほうがありがたい」と、依頼者側の気持ちにも変化が見られるようになりました。これは時代のスピードが激しくなったためです。激しくなる時代の変化に乗り遅れることのなくついて行くためには、それなりの道具や方法論が必要になります。そうなると、最低でも前述のパソコンくらいはマスターしておくことが必要です。

  その他


 ほかに、社労士が純粋な3号業務、たとえば「賃金コンサルタントの行う賃金制度導入のようなもの」をやりたがらない理由としては、下記のような事が考えられます。



その1「実際には1、2号業務だけで食べて行ける」

 確かに、社会保険労務士法では「社会保険労務士は、業として手続代行を行える」という独占業務(特権)を付与されています。この部分は他の民間コンサル業と違うところであり、社会保険労務士の社会保険労務士たる存在の根幹、きどっていうならば「故郷」でもあります。いいかえると、「社会保険労務士は、1、2号業務をやるときだけが、社会保険労務士」(他の業務のときは単なるコンサルタントあるいは便利屋等)という考え方すら成り立ちそうです。しかも「実際に1、2号業務だけで食べて行けてる」のであれば、何の問題があるのか。社労士の 王道ではないのか。そういう考え方もあります。
 しかし、今はまだ、1、2号業務だけで食べていけるかもしれませんが、これからはどうでしょう? 業務のオンライン化の進展や、社労士のルーチン業務部分のCDROM化など、その社会における業務の価値(=お金を支払ってもやってもらいたいという価値)が逓減しているのは事実です。手作業中心の時代には月額7万円だった給与計算業務がパソコン及びソフトの浸透のため、月額2万円に暴落したという話もあります。



その2「これからは3号業務? 30年前からそんな事がいわれていた」

 確かに「もうだめだ、すたれる」はずの1、2号業務は相変わらず健在であり、「これからの主流」の3号業務は、鳴り物入りの前評判の割にはぱっとしないとも言われます。
しかし、この業界でも賃金制度の改定などの3号業務を中心にやられているほうの方が、手続き業務をだけをやられてる方よりも収入がずっと多いというのも、画然たる事実です。
 また、ここ数年の技術環境の変化に起因する様々な大変革は、過去の延長からは考えられない様々な新しい動きを起
しつつあります。ある意味で「狼と少年」のような3号業務でしたが、今度こそ「狼」の出番なのかもしれません。
 いずれにせよ、時代の変化に合わせて変化するのが企業であり、企業の変化に合わせて変化するのが人事制度であり、人事制度の変化を先取りして提案していくのが社会保険労務士ならば、時代の大変革期である現代こそ、まさに3号業務のビジネスチャンスのステージそのものといえるでしょう。これをものにしない手はありません。

  開業社会保険労務士と勤続社会保険労務士の実務上の差異


 開業社会保険労務士と勤続社会保険労務士の実務上の差異についてですが、一番の違いは何かと言うと、前者は多くの会社を見て比較する事が出来るのに対し、後者は1つの会社を深く知ることができるという事です。会社を知り、従業員を知るためにはどちらも大切な事です。
 ただ、しいていえば、いろいろ比較できる立場の方が、様々な視点からのアドバイスがしやすくなり、有利になる可能性が高いとは言えるでしょう。また、1つの会社を深く知る事についていえば、開業社会保険労務士もサラリーマンとして在
職中は(社会保険労務士業務をしていなかったとしても)深く会社を知る立場にあったわけですから、それを含めて考えれば、開業社会保険労務士のほうが必要な知識(知恵)を多く仕入れやすい環境にあるといえます。
 勤務社会保険労務士のつらい点は、その会社の微妙な問題点や社員感情の温度差などをタイムリーに良く知ることが難しいということです。この点をカバーするためには、関連する人、たとえばその会社の総務部長と情報交換交流を図るなどの対応策が必要でしょう。


2、司法制度改革、規制改革の流れと社会保険労務士

  社会保険労務士制度改革の動向について


 これについては、次のような点が俎上にあげられています。
「訴訟代理権付与の問題」
他士業に比して、その動きが遅かった社会保険労務士業界ではありますが、企業の経営資源中、最重要である「人」の専門家の業界でもありますので、当業界が訴訟代理権を獲得することは、世の中の発展および労働者の福利に貢献することであると確信しております。
また、そのご理解を頂けるのも時間の問題ではないかと期待しているところです。
 特に、現段階では、労働争議の介入は開業社労士のみが禁止されているとい
う、きわめて不可解な問題があります。企業の状況を熟知しておる労務管理の専門家たる社労士に、
労使関係諸問題の相談指導を、なぜさせないのか。実際、その相談指導を求める声が、とりわけ中小零細企業を中心に増加しています。これに応えるための改革こそが、国民の利便性をかなえるために必要なのではないでしょうか。
 また、社会保険労務士に、労働社会保険諸法令に関する代理・仲裁・和解の関与を認めていただきたい。さらに、訴訟時には、簡易裁判所での訴訟代理権、地裁での出廷陳述権を認めていただき


たい。業界としては、かように考えております。
 なぜならば、現状では、労働社会保険関係事件を取り扱う弁護士の数が少ない事や(実際、弁護士試験から労働法がなくなっています)、訴訟の遂行のために高額な費用と長い時間を必要とするため、正しい権利の実現がなされていないケースが多くあると推定されるからです。実際、労働社会保険に関する訴訟事件について、審査請求、異議申立て、再審査請求の代理を行って事件の内容を詳細に知っている社会保険労務士が、いざ訴訟になったら事件に関与できないと
いうのでは、企業と国民の権利の保護および利便性の向上の点から考えても、依頼者にとってマイナスです。

「社会保険労務士試験制度」
試験制度については、下記の点が検討課題にあげられています。
・ 社会保険労務士試験受験の学歴要件の撤廃(をする)
・ 法令等による資格取得に係る認定基準の明文化(をはかる)
・ 合格者数の見直し(参入規制があれば禁止する)
・ 合否判定基準の公表(をする)


・ 不合格者に対する成績通知(を迅速にする)
・ 制度の工夫により、資格取得を容易にする
・ 受験料の積算根拠を精査継続を行う
試験をオープンなものにし、基準を明確にしようというもので、首肯するべき内容及び検討方向といえます。
「強制登録・入会制度」
・ 会の登録・入会制度の強制については、団体の自立的統制により公正かつ有効な競争をするための必要な基盤とし
て必要であると考えております。
「報酬規定の在り方」
・ 現状の報酬規定については、社労士会の場合、あくまでも報酬の標準であり、公正有効な競争の確保や合理性を阻害する「協定」とは異なるという観点から、現状の報酬規定の在り方を維持するべきと考えております。
「法人制度の検討」
・ 資格者の法人制度の創設を認める方向で検討中です。

  社会保険労務士の業務権限拡大が求められる社会的背景について


 現代は、世界標準の時代であり、スピードメリットの時代であると言われています。いずれも世界的な情報インフラ整備、早い話がインターネットの普及によるものです。かつて、スケールメリットといわれていた時代には、大量生産による低価格化戦略ということで大企業が有利でした。しかし、今やスピードメリットの時代となり、いかに小回りが利くかが勝負の分かれ目になりました。つまり、大企業と対等をなす方向を目指していた中小企業が、逆に大企業をリードするようになりました。
 つまり、これからの日本の未来を明るくしようと思ったら、まず中小企業を活性化させなければいけないという因果関係が、さらに強まったのです。中小企業の活性化のへそは「働く人の活性化」です。そのためには組織と人を見直す必要があります。具体的には、たとえば「動機付け」「目標管理制度」「人事考課制度」「給与・賞与・退職金などの処遇制度」「教育制度」「対組織や対人の適正診断」などの仕掛けの見直しということになります。
 これを適切に、タイムリーに、きめ細か


く行おうとすれば、やはり専門家の力が必要です。その際の、最適な選択肢が、社会保険労務士です。しかし、時代がいくら社会保険労務士を求めても、求められた社会保険労務士の手足が縛られているようでは、実力の発揮できる部分も限られてきます。この「手足を縛っている縄」をほどこうよ、というのが「社会保険労務士の業務権限拡大」ということです。社会保険労務士の業務権限を拡大することにより、中小企業等での社会保険労務士の活躍の場が広がり、それにより中小企業が元気を取り戻し、最終的には日本の発展に寄与する。つまり、社 会保険労務士の業務権限拡大は、日本の未来のために必要な事なのです。
 誤解のないように申し上げますが、私はここで「社会保険労務士のみが必要だ」と申し上げているわけではありません。今後は、各士業が、融合・共同・提携する必要が出る場面が多くなってくるでしょう。なぜならば、今後は、サムライ業も、「事業主にとって必要な事はなにか」という視点でサービスを構築して行く事になるからです。事業主の立場に立つと、ベストの選択は士業の融合だという場面も多くあるからです。


川口義彦(中小企業福祉事業団 理事長)

昭和13年生まれ。昭和35年、社会保険労務士事務所開業。全国社会保険労務士会常任理事等の要職を経て、現在、全国社会保険労務士政治連盟幹事長代理、全国労働保険事務組合連合会常任理事、中小企業福祉事業団理事長。著書に、『新カウンセリングの本』(日本法令)、『ヒストリーオブ社会保険労務士』(日本マンパワー)、『開業成功ノウハウ』(日本法令)、『初志不忘』(日本マンパワー)、などがある。


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