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vol.1
ワールド トレンド レポート
朝鮮民主主義人民共和国
 経済規模と回復の財源

姜日天(朝鮮大学校政治経済学部助教授)


共和国のGDP

 朝鮮民主主義人民共和国(以下、共和国と略す)のGDP(国内総生産)はどのくらいの規模を持つか。資本主義国のSNA(国民経済計算)方式とちがって、共和国では旧ソ連などで用いられたMPS(物的生産体系)方式による国民所得が何度か公表されてきた。
 それによると1人当たりの国民所得は1988年の2,530ドル、1989年の2,600ドルといった数値が最も大きいものであった。他方、数年前にはアメリカでの国連機関会議の席で1人当たりGNP(国民総生産)が700ドル余りと報告されたことがある。
また、昨年5月、スイスのジュネーブで「DPRKの農業復興と環境保全に関する円卓会議」が開催され、そのとき、初めて多少なりともまとまったGDPなどの数字が示された。それによると、公表された1992年から1996年までにGDPがほぼ半分に激減している(表2参照)。
 以上の数字は、それぞれ計算対象と計算方法が違っていて単純に比較できるものではないが、1996年のGDPの水準は、最盛時に比べるとかなり落ち込んでいることは間違いないだろう。

<表2>朝鮮民主主義人民共和国のGDP(1992〜96)
[単位:100万ドル]



雇用問題と経済回復の財源

 経済全体が落ち込んだ大きな要因の一つは言うまでもなくソ連の崩壊にある。
 共和国は自立的民族経済の原則をとっているため、貿易依存度・対外依存度は相対的に低いとされてきたが、それでも社会主義圏、特にソ連との貿易は経済においてかなり大きなウエイトを占めていた。ソ連科学アカデミー極東支部の研究者は、1980年代に共和国経済における貿易依存度は約25%に上ると推計したこともある。
 ソ連との貿易協定の履行が中断されたことの連鎖反応によって、依存度以上に大きいマイナスの影響を受けたことは経済の原理からも言える。
 では、経済の低迷に対してどのような対処が考えられるか。経済が下降局面にはいると、西側諸国では通常、完全失業率が増加するが、共和国の社会主義経済学の教科書に「失業」という文字はない。「完全雇用」が原則で、「雇用」水準(社会主義経済学の理論では雇用とは呼ばない)を維持するのが基本政策だ。


 共和国における各機関・企業の従業員の規模はほかの国に比べ非常に大きい。そして幹線道路など国家の重要対象を建設する際、企業・機関が抱えている余裕労力を割いてそこに向ける、ということがしばしば行われる。国家規模の大型プロジェクトに、このようにして労働力を賄っているのである。労働力に限らず、より幅広い「支援」が行われる場合も少なくない。国家事業の財源が広範に動員されているかたちだ。
 日本などでは不況になったとき、景気刺激策として赤字国債を発行し、公共事業を行うという手法がとられるが、共和国で建設国債などを発行することは非常に稀である。そもそも将来の財源を前倒しして使うという発想なり習慣があまりないので、経済が低迷するとそれを浮揚させるための財源は不足しがちだ。中央政府により、企業や、地方の自力更正がいっそう強く求められている所以である。

朝鮮大学校政治経済学部助教授 姜日天


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