私が初めてK氏の事務所に来た10年程前、ファクスもまだ普及していなかった。新しいもの好きのK氏がいち早くファクスを購入した後も、書類を送信したい相手が、まだファクスをもっていなかった、ということがしばしばあった。私の「仕事」はテープにディクテーションされた書類を作成することから始まった。書類は市条例の草案や、メモ、スタッフレポート、レターなどであった。訴状作成の仕事もあった。K氏はひとつの書類を仕上げるのに、何度も追加・削除等の修正を加えるという、完璧主義者で、毎日複数のカセットテープを使った。
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作業を終えたテープとまだチェックしていないカセットを混ぜないよう、細心の注意を払ったが、それでもある日、緊急事態が発生し、私とボスの間で、あわただしく何度もテープが行き来する間に誤ってまだ聞いていない指示の吹き込まれているテープをうっかり消してしまうというハプニングもあった。
また、クライアントに書類をモデム送信することもあったが、インターネットのイの字も知られていなかった頃の話だから、便利なようでいて、実は非常に能率が悪かった。そんなことも懐かしく、やや滑稽でもある。
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